前書き
昨年(2021年)の7月に、長野及び群馬へ遠征に出かけている。
このときは1日目にビーナスライン、2日目に渋峠を走った。どちらも初めて走った場所であり、大変楽しい思い出だ。
渋峠。このときは青空と緑、森林限界の先にある山肌とのコントラストを楽しめた。だが、渋峠は季節によってその姿をがらっと変えるという。
特に、通行規制が解除される4月はまだ峠のあちこちに雪が残っており、道の両端に雪の壁が見られるそうだ。その様子はまさに「雪の回廊」そのものであると聞く。
いずれまた訪れてみたいものだ……などとぼんやり考えていると、kabo氏から今年も行きましょうとのお声がかかった。
去年も行ったところだが、だからといって今年は行かないと決めつけなくても良いのである。行きたいと思ったときが吉日。ならば行こう、雪の渋峠。
決断してから各々の行動は早かった。決行日を渋峠開通の翌日にあたる4月23~24日のどちらに定め、その2カ月前から参加者の確認、行程の意見募集、宿の予約を進める。
そうして集まった今回の参加者はこちら。
おもちっこ(@noyuyuya)
kabo(@kabotyo3)
がむが(@AlienA0V0)
坂本(@skmt_fact)
Shin(@shinox_kg)
ふぃぼなっち(@nacci_contact)
373(@m_alice)
michi
KeiOS(@kei_os_)
総勢9名の大所帯。ハイエース2台を借りての大移動となった。
かくして、春の長野-群馬遠征まつりが始まる――。
なお、この日の様子については以下でも紹介されているので、ぜひ読まれたし。
1日目・渋峠
偶然というものはなく、ただ必然だけがある
2022年4月23日 土曜日
日付が変わった午前0時にk&mcycle南船場店へ集合。
到着したハイエースへめいめい車体を詰め込む。スタンドにダンボールと、少しでも揺れによる車体のダメージを避ける手立てを講じる。
目的地となる草津までの距離は300kmオーバー。所要時間は休憩等込みで7~8時間程度だ。
長い長い遠足の開始。しばし大阪を離れる。
運転のできない私は少しでも運転手の眠気を防ごうと苦手なマシンガントークをしようと思ったのだが……なぜかこの日はやたらと眠気が襲ってくる。
普段の遠征時には気が昂ぶっているせいか眠くないのだが。なぜ今日に限って……。
抗えぬ眠気にうつらうつら。やがて、車は長野に入った。
SAで朝食でもと思い外に出ると、まさかの濃霧。
天気予報は一応晴れだと聞いているのだが。濃霧の渋峠などただのヒルクライムである。嫌な予感が拭えない。
ここまで来て引き返すわけにもいかず、そのまま出発した。
高速道路を降りて、嬬恋村側から草津へ。
するとどうだろう。いつの間にか濃霧は消え、青空が見えていた。
天気予報なんて関係ないらしい。俺たちのいるところが晴れるのだ、といわんばかりの「俺が持っとるんじゃーい!」感である。
高揚する気持ちを抑えながら草津に到着。さっそく車体を下ろし、出発準備を整える。
スタート地点のローソンに向かうと、そこにはどこかで見た姿があった。
まさかのぐふとく氏(@gufutoku)である。
聞けば、既に昨日の渋峠開通日に早速登ってきたのだという。我々が来ることを知り待っていてくれたらしい。
かくも世界は狭いことを知る。なんという偶然か。
いや。天候にしても、出会いにしても。偶然というものはなく、ただ必然だけがあるのだろう。
ぐふとく氏が参加し、メンバーは総勢10名。いざ、あたっく渋峠!
スーパーモフモフタイムを求めて渋峠
おもち氏を先頭にして出発。
およそ1年ぶりの渋峠ゲートである。あまり懐かしいという感じがしない。
2回目ともなれば峠の行程も頭に入っている。
スタート地点から殺生ゲートのあたりまではよくある林道が続く。特筆すべきところは何もない。
だが、登りながら体がどうにも違和感を覚える。以前に来た時よりもきつい気がする。
否。おそらく寝不足で心拍が妙に上がっているようだ。そこに妙なテンションが重なり、動悸が激しい。
殺生ゲートの手前までやってくると、ところどころに雪が積もっているのが見えた。
周りのテンションも俄然上がってくる。
急いで登る必要は無い。休憩がてら、各々自転車を雪に立てかける謎のミッションに勤しむ。
気を取り直して先へ進む。殺生ゲートの向こう側へ行くと……。
く、くさい
急に硫黄の匂いが強くなったな
私を炭鉱のカナリアに使うなんて、KeiOSの非人道性もここに極まれり
とりあえず息止めて走るか、そしたら死んじゃうけどな!
もちろんそんなことをすれば硫黄中毒の前に窒息死する。止まらなければどうということのない場所だ。
とはいえ、その看板によって我々はここが今も活火山であることを知るのである。
草木も生えぬ不毛の大地、という表現が相応しい。
雪もこの辺りは気持ち少ない気がする。危険な場所には違いないので、停車することなくさっさと通り過ぎる。
さらに進むと山肌に沿ってワインディングロードが見える。がらっと景色が変わった。
森林限界が近いのか、高い木々も姿を潜め、峠そのものの形がくっきりと浮かび上がる。
それにしても動悸が激しい。心拍が上がりすぎている気がする。
やはり寝不足はいけない。加えてここ暫く強度の高いライドを行っていないせいか、体が鈍っているのだろう。ゆっくり登っているのに、やたらと疲労を感じる。
このあたりから景色を楽しむよりも、とにかく登り切ろうという意志が先行し始める。
無言で登ってゆく先に、万座三叉路ゲートが姿を見せた。
ここを下るとグンマーを象徴する例の毛無峠へアクセスできる。一度は行ってみたいのだが、今回も見送り。
中之条町の標識が見えたらあと少し……と思っていたら、ここでまさかの渋滞。
道路工事のせいか片道通行となっており、なかなか進まない。
当然ながらここも一般道路、しかも立派な国道である。交通ルールはきっちり遵守、すり抜けせずに車の後ろでぴたっと待つ。
やたらと強い風に煽られながら、なんとか日本国道最高地点まで到着。
前回よりも今回のほうが圧倒的につらかった……。だが、それだけに達成感もひとしおである。
参加者10名のうち、渋峠への初参加は3~4名。特にがむが氏は新車納車後の(ほぼ)初ライドだ。良い思い出になってくれればと思う。
国道最高地点を背にして、さらに先へ。この先に長野―群馬の県境にそびえ立つ渋峠ホテルがある。
実を言うと、登っている途中から国道最高地点のことは頭から抜けていた。
× 渋峠を登り切る→頂上まで行く。
○ 渋峠を登り切る→渋峠ホテルでスーパーモフモフタイム!
そう、渋峠ホテルには例のモフモフ犬、ゴールデンレトリーバーのマーカスがいるのである。
また犬……犬こわい
それは何かのフラグか? この前来た時あんなにじゃれついてたじゃないか
あんなに酷い仕打ちを受けるとは思わなかった。来世は猫になりたい
犬かわいいのになあ……
マーカスのそばまでやってくると、ちょっと面倒くさそうにしながら今回も「ええで」という感じで撫でさせてくれた。
相変わらずのモッフモフである。このために登ってきたといっても過言ではない(過言ではない)。
来年もまた来られるだろうか。マーカスの姿を見ながら、ふとそんなことを思った。
ぐふとく氏とはここでお別れ。彼はこのまま長野側へ下るという。道中お気をつけて!
我々も達成感をかみしめつつ、このままでは昼食もままならないということで帰路に向かう。煽るような風に注意を払いながら再び渋峠を下る。
登っているときにはあまり意識していなかった雪の回廊。その景色に圧倒される。
それにしても、去年はもっと楽に登れた気がするんだが……。次来るときはもっと景色を楽しめるように、余裕をもって臨みたい。
2回目の渋峠。初めての真っ白い渋峠。大変だが満足のいくライドであった。
ケイオスバトルin草津
草津まで戻り、ふと目に付いた飯屋で昼食を済ませる。
鴨肉がメインの店らしい。
うどんやそばでも良かったのだが……妙にお腹がすいており、白米が食べたいと思う。少し迷って京鴨唐揚げ膳をオーダー。
出てきたのがこちら。
鴨肉の唐揚げとは珍しい。
さっそく一口。噛む度に鴨肉の歯ごたえが唐揚げの旨味となって口内に溢れる。
これはコメが進むというものだ。
迷わずTKGに仕立てて、唐揚げとのコンビネーションを楽しむ。美味い。
シンプルながらよくまとまった膳である。大阪にある玉子かけご飯の店を思い出す。
かもた。鴨肉づくしのまんぞくであった。
昼食を終えて、時刻は14時過ぎ。少し早いが宿泊地へと向かう。
本日のお宿はこちら。
それなりに歴史のある旅館だが、細かく掃除が行き届いていて居心地が良い。風呂も大浴場と貸し切り風呂がある。
ここの温泉はその泉質のせいか、石けんが不要らしい。湯とタオルだけで体を清め、あとは湯に浸かるだけで良いそうだ。なにその昔ながらにして最先端の風呂事情……。
風呂に入ってさっぱり。ヒルクライムの疲労が和らいでゆく。
部屋割りは酒飲み組とそうでない組で分けられる。酒飲み組として押し込められたのはがむが氏、Shin氏、なっち氏、私の4人。
こいつらが集まるとどうなるのかしら?
知らんのか、ケイオスバトルがはじまる
ただ飲みたいだけでしょ!
ええんや、渋峠登った後に風呂入って飲むとか優勝すぎるやろ。
というわけで、本日はおつかれさまでした。乾杯!
その後。
2戦目(夕食)。
3戦目。
以下略。
こうして、1日目の夜は更けていった。
2日目・アトリエキノピオ
体はパンで出来ている
2022年4月24日 日曜日
午前6時過ぎに起床。昨日の酒は残っていないようだ。
本来なら8時30分から始まる『デリシャスパーティ♡プリキュア』第7話をwktkして待つところだったのだが、流石にそこまで滞在しているわけにもいかない。
うう、今日は黄色い子キュアヤムヤムの初登場回なのに……
俺だってつらい。帰ったら録画分で一緒に応援するぞ
リアタイ視聴できない悲しみ……
宿に別れを告げて、いざ出発。
2日目は長野の白馬周辺を走るグループと、それ以外の目的地へと向かうグループに分かれる。私は後者、それ以外の目的地へと向かうグループだ。
今日は走らない。走らないということはつまり、大人の遠足あるいは修学旅行である。
一路、その目的地へ――。
と、その前に軽井沢にて腹ごしらえ。訪れたのはこちら。
洒落た内装の店内。ショーケースには目を引くパンがずらりと並ぶ。
お腹が空いていたので、アンチョビのコロネ、カレーパン、オレンジピールの入ったショコラを注文。
珈琲と合わせてテイクアウトし、車内で食べる。どれも丁寧な作りだ。
おもち氏の運転で軽井沢を通り過ぎ、諏訪市を抜ける。自転車なら何時間かかる距離だが、車ならその半分以下で済む。
やがて車は箕輪町へ。ここに本日の目的地があるのだが……。
その前に(またか)昼食タイム。
いやパン食べすぎじゃない!? 嫌いじゃないけど
体はパンで出来ている。血潮は小麦で、心はブーランジェリー。行く度のパンライドを越えて腐敗。ただの一度も完食はなく、ただの一度も提供はされない。彼の者は常に独りバターの丘で焼きたての香りに酔う。故に、その生涯に米はなく、その体は、きっとパンで出来ていた
詠唱したって1ミリも伝わらないわよ!
朝食に続き、まさかの2連続でパン。店を選んだのは私である。繰り返すが、体はパンで出来ている。
朝食後まったく動いておらず、カフェスタイルで軽くつまめるところ……というリクエストに従った次第である。誰からも異論は出ていない。
昨今の意識高い系ネームのパン屋と同系列かと思ったのだが、それらとは少し趣が異なるようだ。
とりあえずインスタ映えしそうな「具だくさんわんぱくサンドイッチ」を注文。出てきたのはこちら。
断面すげー。カラフルな地層のようである。萌え断というらしい。いや別に萌えはしないが……。
いざ実食。
美味い。野菜たっぷりの具材にチキンとのコンビが瑞々しい食感を与えてくれる。
しかも大変ボリューミー。サンドイッチという概念からは少し外れるようなスタイルである。しかし、奇妙なことにパンから具材がこぼれ落ちることはない。
肝心のパンも悪くはない。「これぞパンです」かどうかはわからないが。ただし、これだけ野菜たっぷりだと水分を含んでしまうので、パンそのものの風味や旨味はそのまま食べた方がわかりやすいように思う。
これぞパンです、イッヌもドヤ顔でそう言いたくなるまんぞくであった。
フレーム塗装の神髄
昼食を済ませて、ようやく本日の目的地に到着。
アトリエキノピオ。
イタリア国旗のトリコロールカラーが入ったフレームの看板が目印だ。
パーキングの標識にもさりげない遊び心が。
木製ハンドメイドバイク、そしてカーボンフレーム、スチールフレームのカスタムメイドを取り扱う工房である。
そして、フレームの塗装も手がけている。べた塗りの塗装やデカールはもちろんのこと、あるモチーフやテーマをもとにそれをデザインに起こし、形作ってくれるという。
このあたりの説明はいくら言葉を並べてみても意味はあるまい。HPやFacebookなどから過去に手がけた作品の写真がアップされているので、そちらを参照いただきたい。
いずれも既製品ではお目にかかることのできないデザインばかり。顧客からの細かな注文が入っているものもあるが、漠然としたテーマから複雑かつ流麗なデザインに仕上げたケースも多いと聞く。
アトリエ代表の安田マサテル氏曰く、基本的にはどんなテーマでも形に起こしてくれるそうだ。例えば、私の愛車、燕雲のイメージ化イラストからでもフレームカラーを再デザインすることも可能なのだそうな。
私の姿からフレームが再塗装……なんか妙な感じがするわね
どんなデザインになるのかは見てみたい気がするな
モチーフやテーマは何でも良いらしく、たとえば好きなキャラクターやロボットなどからでもデザインを起こしてくれる。しかも、痛くならないデザインで(ここ重要)。
カスタムペイントは自分でデザイン案を作成して1から10まで指定しないといけない……と二の足を踏む必要もない。漠然としたイメージをもとに安田氏と相談しながら形作っていけるので、誰でも注文しやすいといえるだろう。
というか、自分でデザインを考えるハードルって高いからな……誰もが美術的な素養を持っているわけではないし。その大部分を賄ってくれるというのは他の塗装屋にない大きな強みだと思う。
このように、フレームの塗装屋ではなく、デザイン設計に重きを置いているように見受けられる。だからこそ、アトリエという名を冠しているのだと感じる。
とはいえ、塗装技術に関してもその技量は折り紙付き。塗り方による発色の違いや、マットとグロスの質感を状況に応じて使い分けることの重要性を丁寧に説明してくれる。
たとえばがむが氏のフレーム。
このカラーデザインもまた、アトリエキノピオで仕上げられたものである。フレームを見れば、その細かな文様の機微や、塗装技術の高さに唸らされるはずだ。
ペイントやデザインに纏わる安田氏とのトークは尽きず、気がつけば長居してしまっていた。何時間でもいられそうなくらいに居心地の良く、楽しい空間だった。
カスタムペイントで自分だけの一台を。いずれ、そう遠くないうちに注文しようと心に決める。
……その頃には新しい1台が我が家にやってきているのかもしれないが。
結びに変えて
アトリエキノピオを出て帰路へ。21時前には帰阪となった。
今回も楽しい遠征となった。雪の渋峠を一緒に楽しんでくれた参加者に心から御礼申し上げる。
そしてアトリエキノピオ。噂以上に何でも作ってもらえる場所だと感じた。周りには既にカスタムペイントを依頼している人も多いらしく、その出来も見て今後どうするか決めたいと思う。
長野を魂の故郷と宣うたのは誰であったか。そのフレーズの通り、意外にも来年また行っていたりして。去年ようやく復旧した乗鞍も捨てがたいが。
長野を今まで以上に身近に感じる、そんな2日間であった。