春めく陽気に誘われてサクラノ和歌山を走る

自転車

前書き

「春は嫌いだ」

1年前の2022年4月、和歌山の桜を見に行くライドの記事は確かそんな書き出しであった。

あれからちょうど1年が経ち、今年もまた春がやってきた。

そして相変わらず、春は嫌いだ。

春が来ると憂鬱になる。そして桜を見ると訳もなく不安の芽が顔を出す。

けれども一方で、桜を見ない春はただ寂寞した感情だけが散り積もってゆくと感じる。

桜を見ると不安になり、桜を見なくとも感情が凪ぐ。なんとも度し難いことである。そして、自ら進んで不安に、憂鬱になろうとするのもやはり度し難いことだ。

そんな己の度し難さを思いつつ、今年(2023年)も桜を見に行くタイミングを計っていた。

しかし、ここ数日はきちんと桜を見られるのか少し心配になっていた。

今年(2023年)は例年よりも暖かくなるのが早く、気がつくと想定よりもずいぶん前倒しで桜が咲き始めているようだ。

一方で、週末には雨予報がちらつく。サイクリストには桜に対する人権などないのだと天が告げているような気分になる。

ついには我慢できず、実は3月の最終週に有給を取得して奈良まで桜を見に行った。予想通り、それは不安と対峙しながらも美しい光景を堪能するという、まるで清濁併せ呑むかのようなライドとなったわけだが。

もういっそ週末は自転車無しで見に行くか……と思っていたところ、4月の第1週、土日の天気予報がかろうじて好転している。

さっそく参加者を募ったところ、最終的に以下の面々が参加してくれることとなった。

おもちっこ(@noyuyuya
がむが(@AlienA0V0
Shin(@shinox_kg
373(@m_alice

行く先は昨年と同じく和歌山。おもちさんのアテンドで、主要な桜のスポットを見て回ることとなった。私にとっては昨年とほぼ同じ内容だが、それだけに信頼できるともいえる。

かくして、今年2回目の不安と向き合うライドが始まる。

そんなこと言って、ここ大阪じゃないか!

2023年4月2日 日曜日

午前5時過ぎに起床。

軽く朝食をとり、準備を済ませて6時半くらいに出発。少し走って近くの駅へ向かう。

カスタムペイント後、初の輪行である。輪行はとかくフレームに傷が付きやすい。しかし、いろんな場所を走るには輪行が不可欠だ(全部自走で済ませる人もいるが)。

とはいえ、いきなり傷が付くことは避けたい。そのため今回は或るグッズを用意してきた。輪行用のフレームカバーである。

薄く折りたためる素材なので、ジャージの後ろポケットにも十分入る。これを2枚用意してきた。

シートチューブとトップチューブが交差する箇所に巻き付ける。

もちろん、輪行袋内で各パーツが動くとそれだけフレームに傷が付きやすくなるので、各パーツをしっかり固定。

輪行状態が安定していることを確かめて、輪行袋に収納する。リムブレーキのフレームで輪行するのは久しぶりだ。ディスクブレーキに比べると余計なパーツが要らないのはありがたい。

輪行袋をしょって、予定していた車輌に乗り込む。

早朝だというのに、それなりに人が多い。邪魔にならないように立っていると、ドアの側にいた強面のおっちゃんがにこやかに場所を譲ってくれた。ありがてえ……。

電車に揺られて1時間ほどすると、JR和泉鳥取駅に到着。

駅名は知っているが、初めて降りた気がする。ここは大阪か鳥取か。

振り返ると、373さんの姿があった。同じ電車に乗っていたらしい。

輪行を解除しながらフレームを確認する。傷はついていないようだ。フレームカバー、なかなか役に立ちそうである。

準備を整えて出発。駅すぐ近くのコンビ二を待ち合わせ場所に指定していた。

おもちさんとがむがさんは先に到着していたようだ。

がむがさんと走るのは昨年12月のカキオコライド以来である。

残る一人、Shinさんは少し遅れるので先に進めとのこと。軽く補給を済ませて、いざ出発。

……と思いきや、数メートル進んだところで停車。

無理もない。いきなり目の前に桜があるのだから。

何の変哲も無い、川沿いの桜。別に、何か有名なスポットというわけでもない。なのに見応えがある。

誰かが言い出すまでもなく、いきなり撮影開始。

写真提供:がむがさん
写真提供:373さん
写真提供:おもちさん
写真提供:373さん
写真提供:がむがさん
写真提供:373さん
写真提供:373さん

早速、満開の桜を愛でることができた。

ちなみにこの場所は大阪府内である。今日は和歌山で桜を見るはずなのだが……まさかたどり着く前から最高の景色を堪能できるとは。

いきなり名残惜しい気持ちになりつつ、出発する。

阪和線に並走するようにして、r64の道をゆっくり登ってゆく。

向かう先は山中渓。大阪と和歌山の県境に位置するこの場所にはかつて紀州街道の宿場があり、徳川紀州家が参勤交代の際に使用していた。

温泉宿としてそれなりに栄えた宿場であったそうだが、やがて人の往来も少なくなっていった。そこで昭和40年代からこの地に桜の植栽が行われ、今では府内を代表する桜並木のスポットとなった、というわけだ。

というか、ここもまだ大阪府内である。山中渓まで来るとどうにも和歌山に来たような感覚を覚えるが。

JR山中渓の近くまでやってくると、桜並木が視界に飛び込んできた。

写真提供:373さん

これはまた、なかなか。

山中渓駅の周りには桜を求めてやってきた人が集まっている。ホーム内にもその光景を収めようと人だかりが出来ていた。

写真提供:おもちさん

それでも奈良などの定番スポットに比べると人の集まりはほどほどという感じで、ストレスなく見渡せる。昔の宿場町のしっとりとした雰囲気にちょうど良い塩梅だ。

この日はおおさかのてっぺん能勢町から、同町のPRキャラクターであるお浄とるりりんもやって来ていたらしい。

山中渓のある阪南市の公認キャラともよくコラボしているのを見かける。

https://www.ojyo-ruririn.com/event/nose-hannan-stamp2022-2023

事前に知っていれば少し寄り道したかったが、まあ仕方が無い。

ここでShinさんも合流。これで今回の参加者が全員揃った。

本日の桜スポットは多い。さっそく、和歌山へと向かおう。

サプライズドアタック根来寺

山中渓を過ぎて和歌山市に入り、雄ノ山峠を越える。

急な下りを注意深くこなした先で岩出市へ。おもちさんの先導でr7を東に進む。

ちょうど1年前もこのルートを通った。となれば、最初に向かうのは根来寺しかない。

根来寺

新義真言宗 総本山 根來寺(根来寺) 公式ホームページ
新義真言宗 総本山 根來寺(根来寺)は、和歌山県北部 岩出市に位置し大阪市内から約60分、桜・紅葉・車祈祷・ご供養のお寺で県内有数の観光名所です。国宝「根本大塔」や数々の重要文化財を有し、桜・青葉・紅葉が変化に富み多くの参拝者の目を楽しませ...
写真提供:373さん

根来寺の大門が近づいてきたところで、道の向かい側で熱心に写真を撮っている人が見えた。

みんな桜やら自転車やら好きだな……。そんなことを思いながら大門の前に到着したとき。

後ろから373さんが珍しく大声を出すのが聞こえた。というか、373さんのそんな大声は過去に聞いたことが無い。

何事かと振り返ってみると、さっき写真を撮っていた人が話している。

どこかで見たような顔だわ

うん、どこかで見たような……って坂本氏じゃねーか!

写真提供:373さん

まさかの坂本さん(@skmt_fact)である。今日は諸事情から不参加だと聞いていたのだが、おもちさんと共謀してこっそりやって来ていたらしい。

なお、この二人の企ては以下のブログ記事から確認できる。

桜ライドが羨ましくて骨折だけど突撃してみた⭐︎〜電動アシスト付き自転車でな!〜|走れ坂本
はじまり、最後まで油断せずに行こう どうもお久しぶりです、こんにちは。 3月の上旬に右足にヒビを入れてしまった坂本です。 なんとまあ足にヒビが入ってしまいました。 原因は、そう、ベッド🛏 人々の身体を癒し無くてはならない存在 そんなベッドさ...
和歌山さくらライド2023
自転車やその他おもちっこの日常の事を適当な時間軸で書き連ねます。

和歌山の桜を堪能するために、そしてカスタムペイントした我が愛車の撮影のために、わざわざサプライズを仕込んでまでやってきてくれたそうだ。ありがたい……。

道の駅で電動自転車を借りての参戦である。

写真提供:373さん

確かに、電動自転車ならめぼしい桜スポットをまわるのにちょうど良い。

思いがけない追加メンバーを加えて、さっそく大門周辺で桜と愛車を愛でる時間が始まる。

昨年ここを訪れたとき(2022年4月3日)は満開だったのだが、今は散り始め。

だが、大門のひっそりとした雰囲気にはちょうど良い。

写真提供:373さん
写真提供:373さん

愛車と桜のベストショットを収めようと、めいめいアングルやら何やら悩みながらシャッターを切る。

写真提供:坂本さん
写真提供:373さん
写真提供:373さん

良き1枚を撮っていただいた。

その先にある根来寺は車でごった返していた。注意深く車体を敷地内へと運ぶ。

こちらのほうが桜の本数が多く、華やかな印象を受ける。

ちょうど自転車を並べられる場所があったので、全員で記念撮影。

写真提供:がむがさん
写真提供:373さん
写真提供:373さん
写真提供:坂本さん
写真提供:坂本さん

ここまでで十分に桜を担当したような感じだ。もうゴールしても全然構わないような気がしてきたが……。

和歌山の黒船チェーン店でとんかつを食す(厚切りとんかつよし平)

根来寺を離れて、時刻は11時過ぎ。

当初はここから粉河へと向かう予定だったが、そうすると昼食の時間や場所を少し検討しなくてはならない。

一方、岩出なら食べる場所はいくらでもある。ここまでほとんど走っていないが、先に昼食を済ませておくほうがのんびりと回れそうな気がした。

というわけで、予定変更。おもちさんを先頭に岩出市内の国道沿いへと向かってゆく。

さて何を食べようかと思っていると、おもちさんから提案があった。その魅力的な提案に全員一致。流石は地元民である。

根来寺からさほど離れていない場所に、その店はあった。

厚切りとんかつ よし平 岩出中迫店

厚切りとんかつ よし平 岩出中迫店 (岩出/とんかつ)
★★★☆☆3.34 ■予算(夜):¥1,000~¥1,999

ここ最近、和歌山で勢力を伸ばしつつあるチェーン店らしい。田辺に本店を構え、地元及び和歌山市で複数の店舗を展開。とんかつの他に牛かつ、魚かつ、そして天ぷらを扱っている。

11時過ぎに入ると、既に店内は結構な賑わい。なかなか期待できそうだ。

着席し、メニューを確認する。とんかつメインの品がやたらと多く、目移りしてしまう。

迷いに迷った結果、和風おろしロースかつ膳を注文した。

キャベツ、みそ汁、ご飯は無料でおかわりできる上に、ここではご飯の種類が選べる。この日は白米、雑穀米のほか、帆立を使った炊き込みご飯からチョイス。

とんかつといえば白米だが、興味をそそられて炊き込みご飯にした。

待つこと暫く。出てきたのがこちら。

揚げたてのとんかつから溢れる香りが食欲をそそる。

おろしポン酢をかけて、さっそく一口。

美味い。ビジュアルが放つ通りの味わいだ。厚切りのとんかつによる肉の旨味とサクサクの衣の食感、それがポン酢と合わさってなんとも言えぬ定番の味わいを生み出す。

ポン酢は龍神村の天然柚を使用したものらしく、柚子の香りが力強く印象に残る。食欲をそそる柑橘系の風味。それを下地にとんかつを食す快楽がここにある。

帆立の炊き込みご飯はあっさりとした味付けに帆立の風味がほっこりとした印象をもたらす。こちらも美味だ。ただ、とんかつと合わせるならやはり白米か雑穀米のほうがベターだったかもしれない。

なかなか高いレベルでのとんかつを提供するお店だった。覚えておこう。

厚切りとんかつよし平 期待通りのまんぞくであった。

桃と桜の見頃はだいたい一緒

さっそくの昼食で胃袋が満足になった。良い気分でお店をあとにする。

すると、何やら坂本さんの借りてきた電動バイクを皆が交代で乗っている。

写真提供:373さん

みな電動アシストを体感するのは初めてらしい。おもちさんはさておき、373さんが珍しくテンション高めである。確かにあのアシストは不思議な感覚だといつも思う。

出発前に次の行き先を検討。粉川方面は後回しにして、このまま紀の川市へと向かうことにした。

再びおもちさんのアテンドで南下し、紀の川沿いに出る。自転車止めもなく走りやすい道だ。

のんびりと川沿いを走り、紀の川市に到着。橋を渡った先に、文字通り桃源郷があった。

「あら川の桃」で有名なこの地では桃の農園が集まっており、3月下旬から4月上旬にかけて見事な桃の花が一面に咲き誇る。

川沿いから、桃の花の広がりを望む。桜に比べて鮮やかな色調が目を惹く。これもまた、春の風物詩といったところか。

ちょうど桃の木のすぐ近くまで行けるので、自転車を押して農園へと下りてゆく。

写真提供:がむがさん
写真提供:373さん

近くで見る花もまた良きものだ。

愛車と共に写真撮影していると、農園の関係者の方に話しかけられた。聞くところによると、ちょうどこの時期に桃の木を剪定しているらしい。

確かに、言われてみると剪定済みの木がちらほら見える。既に剪定済みの木はそうでない木にくらべると花の数も少ない。この剪定作業がやがてあら川の桃に結びつくのだろう。

桃は私もそれなりに好きだ。甘いものは苦手だが、果物は別である。今年はいくつか食してみたいところだが……。

私ではなく愛車が食べたいと言ったのだ(藤桃庵)

桜に続き、桃の花を愛でて春の訪れを堪能。このまま次の桜を見に行きたいと思ったのだが。

アイスが食べたい

……その唐突に願望をひけらかすのを止めてくれませんかつばめさん。私はドラえ○んのポッケじゃないんですよ

KeiOSも暑いでしょう? 冷たいものでも食べて少しクールダウンしましょ

今日全然走ってない……

とはいえ、この日の最高気温は23度。春先にしてはかなり温かい。というか少し暑い。確かに冷たいものが欲しいところだ。

まあ、甘いものは苦手なのだが、つばめが言うなら仕方ないね! というわけでおもちさんとShinさんにその旨を告げて、とある店へと向かう。

やってきたのはこちら。

藤桃庵

藤桃庵 (下井阪/ジェラート・アイスクリーム)
★★★☆☆3.48 ■予算(昼):~¥999
写真提供:坂本さん

和歌山の有名なジェラート屋だ。桃農園による直営で、期間限定のパフェなどを求めて行列ができることも多い。

この日は行列もなく、すんなりと入ることができた。店内に入ると、いくつものジェラートがお出迎え。

少し迷った末に、定番らしいと思われる桃みるくと、レモンレモンみるくをセレクト。

ちなみになぜレモンが2回並ぶのかは知らないが、世の中は2回連呼するほうがおさまりが良いものは多い。ベントラーベントラーとか、アブアブとか、まあそんなやつだ。

さっそく、一口。

美味い。少し甘めなみるくの味わいが桃のテイストとうまく調和していて、ほどよいレベルに落ち着く。なるほど悪くない。

レモンレモンみるくはレモンの香りのほうが強めで、すっきりとした味。夏になればもっとその旨味を堪能できるに違いない。

このくらいの甘さなら、他のメニューも試してみたいと思う。早くも冷たいものが美味しいと感じる季節。また機会があれば寄ってみよう。

藤桃庵のジェラート、甘いものが苦手な自分でも楽しめるまんぞくであった。

ただ桜があるだけの名も無き場所

店を出ると、さっきまで広がっていた青空に雲がかかっていた。

雨雲レーダーを見ると、いつの間にか海南方面に雨雲が広がり、紀伊山地にかかっている。当初予定していた最初が峰を登るのはちょっと難しそうだ。

やむなく、最初が峰は諦めることにした。せっかくなので残りのスポットは回っておこうということで、当初予定していた粉川方面を目指す。

紀ノ川沿いにR424からr13へ。

写真提供:373さん

途中の登りで坂本さんの電動アシストが炸裂し、全員をごぼう抜きしてゆく。なにそのチート……。

途中で紀ノ川サイクリングロードに入ると、ぽつぽつと水滴が落ちてきた。既に山の方は濃い雲に覆われている。一方、紀ノ川を挟んで対岸はそれなりに晴れていた。

粉川に到着。雨脚は大したことなく、すぐに止んでくれた。どうやらギリギリのところで天候に恵まれているようだ。

写真提供:373さん

紀ノ川を渡り、対岸に見えた桜並木へと近づく。

写真提供:373さん

ここは、特に名も無い場所だ。けれども、なかなか見事な桜のトンネルがある。

写真提供:373さん
写真提供:373さん

しかも、道の途中に車止めがあるので気兼ねなく撮影ができる。我々以外にも近所からやってきたらしい人たちがめいめい撮影に興じていた。

しかし、昨年来た時に比べると満開は少し過ぎており、ぽつぽつと葉桜が目立つ。やはりこの時期にしてはかなり温かく、桜が散るのも早いようだ。

とはいえ、地面に落ちた桜の花びらは鮮やか。少し時期を過ぎた桜もまた良いものだと感じる。

来年もまた、ぜひ見に来たいと思う。

B級ソングアタック粉河寺

名も無き桜並木から少し北上すると、最後の目的地がある。粉河寺である。

粉河寺

粉河寺|西国第三番札所|厄除観音|和歌山紀の川市
和歌山、紀の川市にある寺、粉河寺。国宝の粉河寺縁起絵巻、名勝の粉河寺庭園が有名。

ここは昨年来ていないので、少し楽しみにしていた。

写真提供:373さん

寺の門を抜けると、妙な歌が聞こえてくる。寺には似つかわしくない、昭和歌謡のフレーズだ。

この歌は……ジュディ・オングの『魅せられて』じゃないか。

どうやら境内の端あたりでカラオケなのか演奏会なのかイベントをやっているらしい。

寺の雰囲気には合わないだろうと思う一方で、境内に流れる場違いなB級感に思わず笑ってしまう。

ちなみにイベントは我々がやってきてすぐに終了。すると、本来の境内が顔を見せる。

写真提供:373さん
写真提供:がむがさん

石畳の道に沿うようにして、桜の木々が並ぶ。静謐というわけではないが、地元に愛されているかのような長閑な雰囲気。

写真提供:おもちさん

そのなかで、桜の花をしばし愛でる。

言い伝えによると、粉河寺の建立は奈良時代の末期にあたる770年。その昔は天台宗の寺であったが、太平洋戦争後、粉河観音宗の総本山として独立し今に至る。

本尊の千手千眼観音菩薩は絶対の秘仏であるらしく、過去一度も公開されたことがないらしい。境内には本堂や大門など、4つの建物などが重要文化財に指定されている。

根来寺といい、粉河寺といい、どちらも桜のスポットとしては良い場所だと感じる。奈良ほど人でごった返すわけでもなく、落ち着いて桜を楽しめる。

無論、人の集まりがまばらであるという点はこの地の状況を物語っているわけでもあるのだが。

歴史も文化的価値も一級の粉河寺である。かつては門前町としてたいそう栄えていたそうだ。

しかし、それも昔の話である。粉河駅から粉河寺の区間に店舗が建ち並ぶ様子は、どこも覇気が無い。シャッターが降りているのが目立つ。

岩出市に比べて大阪府へのアクセスが悪いことも影響しているのかもしれない。私的にはもう少し栄えてくれると嬉しいのだが。

いずれにしても、できれば来年もまた来ようと思う。

トランザムというよりもV-MAX

粉河寺を出たところで、坂本さんの借りていた電動自転車のバッテリーがそろそろ尽きそうな感じである。ちょうど良い時間なので、帰路につくこととした。

電動自転車のレンタル場所は道の駅ねごろ歴史の丘。最初に訪れた根来寺のすぐ近くだ。とりあえず、そこまで走ることにした。

紀の川市と岩出市を結ぶ主要道はR24のほか、r7がある。R24は道が広いが交通量も多い。r7は昔ながらの県道で片側一車線。大人数で走るのは避けたい。

そしてもう一つ、両市を結ぶ道路として京奈和自動車道に並走する広域農道がある。アップダウンがあるものの道は広く、交通量は許容範囲だ。この広域農道を使って戻ることにした。

粉河寺から北上し、広域農道からひたすら西へ走る。信号も少なく快適だ。

写真提供:373さん

一気に岩出市との境界まで戻る。ちょうど近畿大学の手前辺りで、先頭を走るShinさんが「ここから先はアップダウンなので、先に行く方はどうぞ」との声がかかる。

おもちさんが我先にと飛び出していった。

ねえKeiOS、赤いのが飛んでいったわ

わかっている、皆まで言うな

とりあえず後を追いかけた。そのままおもちさんを抜き去り、ひたすらペダルをぶん回す。

下りはともかく、登りに入っても脚を緩めることはしなかった。正直言えば息も絶え絶えだったが、それよりも久しぶりにつばめと全力で走る楽しさが勝る。

ふと右側から振り返ると、誰もいない。どうやらついてきている人はいないようだ。

……などと思いながら左側を振り向くと。そこにおもちさんがいた。

おもちさんが「忍びなれどもパーリナイ」なのは知っていたので、そんな気がしていたのだが。抜かれないようスピードをさらに上げる。

根来寺の前は出発時よりも車が増えていたので、ここで減速。いきなり始まったスプリントだったが、なんとか先頭を保ったまま終えられた。

しかしまあ、安全運転が第一である。

根来寺を過ぎた先にある道の駅ねごろ歴史の丘に到着。坂本さんはここで電動自転車を返却し、バスの時間まで待つ必要があるらしい。

せっかくなので我々も一休みすることにした。

併設されているカフェに入る。うっ……甘そうなメニューばかりだ。

このフルーツパフェにしましょう

あのですね、つばめさん。俺は甘いものが苦手なの知ってますよね?

知っているわ。だけど拒否権はないのよ、KeiOSには

財布を握っているのは俺なんですが

くっ……相変わらずお酒とラーメン以外の飲食物に対して財布の紐が固いわよねあなた。仕方ないからハーフサイズで許してあげましょう

人の話聞いていないよこの子

とはいえ、甘いものが苦手な私もつばめの要求にはそれなりに甘いわけだが。食べたいというのなら仕方がない。フルーツパフェのハーフサイズを注文した。

店内に着席してしばらく。出てきたのがこちら。

パフェの類いをほとんど食べたことがないのでわからないが、見た目はごく普通のそれだと思う。

とりあえず、一口。

あ、あまい……生クリームとスポンジケーキが甘さの暴力となって舌に直撃する。

これはフルーツと一緒じゃないと食べられない気がする。乗せられたフルーツをひとつずつ取りながら、クリームとともに口へ運ぶ。

それでも最後にはフルーツがなくなり、クリームそのものと対峙することになった。

なんとか完食したものの、ステータスは微妙に胸焼け状態。レギュラーサイズを注文していたら今頃もだえ苦しんでいたに違いない。

だから言っているじゃないか……甘いものは苦手なのだと。

その後、坂本さん、おもちさんと別れて紀伊駅まで走り、本日のライドは終了。みなとともに輪行で帰路に着いた。

結びに代えて

桜を見るためだけのライド。意識的に始めたのは去年(2022年)からである。

しかし、今年やってみてよくわかった。年に1度はこのライドをやっておくべきだと。

2年連続の和歌山となったが、もちろん兵庫にも、そして奈良にも桜の有名なスポットはたくさんある。

ただ、岩出市と紀の川市はありがたいことに桜のスポットが集中しており、兵庫や奈良に比べると人が少なくてまわりやすい。ついつい来年もまた来てしまいそうな気がする。

惜しむらくは満開の時期を少し過ぎていた。こればかりは天候に従うしかないのだが。

気がつけば、不安な心境は幾分ましになっていた。それがライドのせいなのか、桜を見たせいなのかはわからない。

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