雨にも負けず、桜を求めて和歌山へ

自転車

前書き

春は嫌いだ。

春は年度の始まりであり、あらゆる物事における節目の季節である。

そのせいかどうかは知らないが、春が来ると憂鬱になる。自分の生まれた季節なのに。

寒さが和らぎ、ふと肌に感じる温かみは、多くの人を穏やかで和やかな気分にさせるのだろう。だが、それすらも自分にとってはメランコリックな気分を呼び起こす一因でしかない。

いわんや、桜をや。桜を見ると、気分が塞ぐ。ああ、春が来てしまった。そう思うのである。

だが、今年に限ってはその憂鬱な気分が行き過ぎて反転してしまったのか、桜が見たいという気持ちが強くなっていた。

ここで言う「桜が見たい」とは、酒を飲みながらどんちゃん騒ぎをしてついでに桜を視界に収めるという花見のことではない。

まあ、酒はあってもなくても構わないのだが。休日に気兼ねなく桜をじっと愛でたい、という意味である。

桜を見て、やはり憂鬱な気分になるのか、それとも何か別な感情をもたらしてくれるのか。

どちらにせよ、桜が見たい。そんな願望を強く抱いたのはいつ以来だろう。

2022年4月の第1週。土曜日は晴れ、日曜日は曇りないしは雨予報。自転車で桜を見に行くなら土曜一択である。

しかし、土曜日はまさかの出勤。土日出勤を命じられることなど殆ど無いのだが、そのごく稀な一日がやってきてしまったというわけだ。

朗らかな陽気の中、桜ライドを楽しむ人々の様子をTLで眺めては、ため息をつく。

日曜日、雨でもいいので徒歩圏内で桜を眺めに行くか……それならワンカップ片手にでも楽しめるだろうし。いや別に酒はあってもなくても構わないのだが(2回目)。

だが、どうにも諦めきれない自分がいた。本当に、日曜日は走れないような天気なのだろうか。

そんな私の思いを察したのかどうかは知らないが、ふと天気予報を見ると、少なくとも午前中は曇りに変わっていた。降水確率も随分下がっている。

これなら行ける。そう思って、同じく土曜日に走れなかったおもち氏(@noyuyuya)に声を掛けてみると、行けるとのこと。あれよという間に翌日の予定が定まっていった。

行き先は特に決めていなかったのだが、諸々打ち合わせているうちに、おもち氏プレゼンツによる和歌山の桜堪能ライドとなった。和歌山にはそこかしこに桜のスポットがあるらしい。

桜を見に行ける。そのことに微かな安堵を覚えつつ、明日のライドを心待ちにするのであった。

根来寺でごろごろする?

2022年4月3日 日曜日

午前6時に起床。特筆すべきことは何もなく、ぱっと準備を済ませて出発した。

いつものように最寄り駅にて輪行状態にまとめ、和歌山へワープする。

あいにくの曇天。そんなことは最初からわかっている。雨さえ降らなければ……。

降ってきたわよ

えええええええ午前中は降らないんじゃなかったのか

天気予報はギリギリ曇りを保っていたが、雨雲レーダーでは南大阪を中心に局地的な雨。

和歌山まで抜ければ問題なさそうなので、このまま進むことにした。

紀伊駅にて降車。ささっと輪行状態を解除して、集合場所のコンビニへ。

到着して暫し待っていると、おもち氏がやってきた。

撮影:おもち氏

聞けば、彼も家を出た途端に雨が降っていたので困惑していたとのこと。

再び雨雲レーダーを見ると、岩出市・紀の川市周辺はなんとか雨を避けている。いまのうちにさくっと回ってしまおう。そう言い聞かせながら、おもち氏の先導で出発した。

r7を東進。最初の桜スポットは集合場所から5kmも離れていないらしい。

根来の交差点で左折し道沿いに北上すると、それらしき場所にたどり着いた。

いきなり満開の桜がお出迎え。その場所、根来寺の境内の一角である。

こんなにもインスタントに桜を見られて良いのだろうか。良いのだろう。

初手からの邂逅に気分は否応にも上がってゆく。いやお前、桜見たらメランコリックになるんじゃなかったのか。

愛車のアングルをあれこれ試行錯誤しながら、おもち氏とともに桜をシャッターに収める。

撮影:おもち氏

写真を撮っていると、観光客らしき人からスマホのシャッターボタンを押して欲しいと頼まれた。陰キャコミュ障であることを悟られないよう、努めて明るい表情で引き受ける。

お礼にお二人の写真も撮りましょうかと提案されたが、自身の記念撮影は苦手なので遠慮しておいた。

さらに根来寺のすぐ近くまで移動する。

ここも桜が満開だ。

敷地内には記念樹があった。

2020年東京オリンピック(開催は2021年)で行われたスケートボード競技の金メダリスト、四十住さくらを称えてのものらしい。彼女はここ岩出市の出身である。

いずれこの樹も大きく育ち、根来寺を印象づける一本となるのだろうか。

素晴らしき粉河桜のトンネル

最初のスポットで早くも確かな満足を得たおもち氏と私。だが、桜が見られる場所はまだまだあるらしい。

根来寺を後にして、次の目的地へと向かう。京奈和自動車道と並走し、ひたすら東へ。

と思っていたら、ここで雨が降ってきた。やはり、今日の天候はどうにも読めないようだ。幸いにも小雨なので、このまま進むことにした。

KeiOSさん、ここを左に曲がればハイランドパーク粉河ですよ。ちょっと寄ってみます?

No Thank you!

ハイランドパーク粉河という名称に騙されてはいけない。それはつまり和泉葛城山を登ることと同義だ。

和泉葛城山にはドラゴンボールよろしく7つのルートがあり、一番易しいルートでもその難易度は六甲山と同レベル。ルートによってはそれを遥かに上回る。

今日は桜ゆるポタライドと聞いている。高度な情報戦に惑わされる私ではない(フラグ)。

r122との交差点を下り、府道沿いに南へ。下りきったところで再びr7に合流し、紀ノ川方面へと進む。

ちょうどR24と合流した当たりで、松下橋西詰の交差点から細い道へ。

そこで突然、「次のスポットはここです」とおもち氏。

撮影:おもち氏
撮影:おもち氏

見れば、さくらのトンネルが広がっていた。比喩ではなく、文字通りに。

短い距離に、桜並木が凝縮されている感じがする。密度がとても高い。

知る人ぞ知るスポットといったところか。ご近所といった雰囲気の人々がまばらに集っているが、一方でバイクや車で訪れている人もいた。

桜の樹の下で、愛車を1枚。

KeiOS知っている? 桜の花が美しく咲くのは、その木の下に死体が埋まっていて養分を吸っているからなのよ……

『桜の樹の下には』か。梶井基次郎だな

あれ、坂口安吾じゃなかったっけ?

安吾は『桜の森の満開の下』。満開の桜の下に行くと皆気が触れてしまうというやつ

日本人って、つくづく桜が好きよね。まあ、私も好きだけど

それだけ桜が日本人のアイデンティティに結びついてるんだろう、多分

さっきの根来寺に比べると、桜の距離感がものすごく近い。こうも身近に桜を愛でられることに満足感を覚える。

せっかくなので互いに愛車とのツーショットを撮る。

撮影:おもち氏

思わず長居してしまった、和歌山の桜は奥が深い。

桜と共に町並みを見下ろす最初ヶ峰

後ろ髪引かれる思いで桜のトンネルから離れ、R24を西に進む。

打田のあたりで左折し、竹房橋を渡って紀ノ川を越える。

少し西へ進んだところで、特に標識も何も出ていない道路を南に折れた。そのまま山を登ってゆく。

この先に桜が楽しめる絶景ポイントがあるんですよ

ほう、どのくらい登らせようというのかね

まあ清滝峠くらいじゃないですかね、KeiOSさんなら余裕でしょう

なるほど、清滝峠なら既に150回以上登っている。そのくらいなら大したこともあるまい。

……そう思っていたのだが。

斜度10%越えているんですがそれは

いやー清滝も一番きついところ10%超えてますよね

確かに超えてはいるけどサイコンに表示されないくらいの一瞬なんだよなあ。騙された!

ワタシウソツイテナーイ

思えば和泉葛城山もこの情報に気づかせないための前振りだったのかもしれない。

とかく、サイクリストは嘘つきである。

12~13%の登りをはあはあ言いながら登ってゆくと、ようやく頂上が見えた。

撮影:おもち氏

この場所は最初ヶ峰と呼ばれる。

撮影:おもち氏
撮影:おもち氏

頂上では多くの桜がお出迎え。夜間にはライトアップも実施されているようだ。

訪問客向けに整備されてはいるが、そこまで人は多くなく、ゆったりと桜を楽しむことができる。

桜と共に、岩出市と紀の川市の町並みを一望。遠景に桜のコントラストが楽しい。こういう楽しみ方もあるのだと知る。

それにしても良い眺めだ。まさに登った先のご褒美といったところである。

おもち氏は昨年に373氏(@m_alice)、坂本氏(@skmt_fact)とともにライトアップ時の景色を見に来ているとのこと。次に訪れるときはぜひその景色を拝みたいものだ。

ももクロには忌避感があります

そういえば、最初ヶ峰から見える町並みのなかに、ぽつぽつと桃色の区画があった。

おもち氏曰く、桃山町と呼ばれるその一体は桃の生産が盛んで、桃色の場所はその名の通り、桃の木が植わっているそうだ。

せっかくなので桜だけではなく、桃の木も見に行くことにした。最初ヶ峰を下り、R424を西に進んで桃山町へ。

途中のコンビニで小休止。桃と聞いて、なんとなく購入してしまった。

コンビニを出て再び紀ノ川あたりまで北上し、堤の上を走る。そのすぐ右手に、たくさんの桃の木が生えているのが見えた。

手近な場所で堤を降りて、その桃の木の場所へ入る。どうやら近所の農家が世話をしているらしい。

細い道のすぐ側にまで桃の木が植わっている。桃と聞くとその果実のイメージから豪華な花を咲かせるものだと思っていたが、桜に比べると花の密度はまばらで、どこかひっそりとした印象を受ける。その違いもまた面白い。

桃山町は桃の一大生産地であるらしく、遠方から購入しにやってくる人も多いと聞く。初夏にはみずみずしい果実が成るのだろう。

甘いものは苦手だが、果物は嫌いではない。特に、桃は美味しいと感じる。桃山町の桃、一度は食してみたいものだ。

これがカロリーの暴力ってやつだ(がんたれ)

計3カ所の桜スポットを回り、ついでに桃の花を堪能したところで時刻はお昼時。

午後からは再び雨予報が出ていた。ここいらでライドも潮時だろう。

しかし、その前に昼食だけは済ませておきたい。おもち氏からいくつか候補を出してもらっていたが、岩出といえばぜひ行っておきたい場所があった。

その場所がこちら。

豚骨中華そば がんたれ (岩出/ラーメン)
★★★☆☆3.70 ■予算(夜):~¥999
撮影:おもち氏

岩出市にある中華そば屋である。和歌山ラーメンと言えば醤油豚骨のイメージが強いが、こちらは関西こってりの名手・無鉄砲系に属する超濃厚の豚骨ベースの店だ。

過去に一度食べたことがあり、その時の味が忘れられずにいた。その後、市内で移転したと聞き、今回再訪問した次第である。

店に着くと、既に10人程度の行列ができている。移転してもその人気は相変わらずのようだ。

ラーメン屋は客の回転が速いので、10人程度の待ちはあまり気にならない。そそくさと並び、順番を待つ。

食券を購入し、運良く空いていたテーブル席に着席する。今回注文したのは濃厚中華そばの特製、大盛り、玉子入りだ。

おもち氏ととりとめのない会話をしながら待つことしばし。運ばれてきたのがこちらである。

つんと鼻をつく濃厚な豚骨の香り。だが、博多系の白濁したスープとは全く異なる香りだ。

いざ、実食。

美味い……。こってりの暴力じみたスープが太麺によく絡み、口の中いっぱいに旨味が広がる。

そこにたまねぎの甘みがプラスされ、こってり感をバランスよく中和してくる。器の中でこってりと爽やかがループし続ける。

だが、そんなループを許さないのがチャーシューの存在だ。

いや、これをチャーシューと一言でかたづけてしまっていいのだろうか。器の半分以上を覆う肉厚のチャーシューが3枚も入っている。

その肉々しさは「ほら、こういうのが好きなんだろう?」と言わんばかり。もちろん大好きである。

人によっては胸焼けするようなこってりと肉の共演、気がつけば大盛りを完食してしまっていた。

はあ、味覚をぶん殴られる感じの暴力的なラーメン、たまらないわ……

ベースは無鉄砲やぶたのほしと近いだけど、それぞれに違いがあって良いな

甲乙つけがたいわね。どれも違って、どれも美味しい。完食したらなんか他のラーメンも食べたくなってきた。KeiOS、次は無鉄砲へ行きましょう

せめて日を改めさせて……こってりは劇薬だから

がんたれ、たしかなまんぞくであった。

――いかん、雨が降って来たな

桜を堪能し、昼食に満足を覚える。午前中一杯であったが、大満足のライドになった。

帰る前に珈琲でもということで、おもち氏の案内で近くのコーヒーショップへと向かう。

カミンコーヒーロースターズ (岩出/コーヒースタンド)
★★★☆☆3.08 ■予算(昼):~¥999

テイクアウト専門のコーヒースタンドだ。

飲み方の種類としてペーパードリップ、ネルドリップ、カフェオレ、ウインナーコーヒー、オーツミルクオレの5種類を選び、そこに好みのコーヒー豆をセレクトするスタイルである。

こってりの後だからというわけではないが、ブラックで一服したい(たいていブラックしか飲まないが)。というわけで、二人ともネルドリップのコウヤブレンドを注文。

撮影:おもち氏

店先にあるベンチに座り、一服する。満腹感を和らげるような、珈琲の苦みが心地よい。

珈琲を飲み終えてなお、しばらく二人してソシャゲの話などしながらまったりと時間を過ごす。もうあとは帰るだけである。先の予定を気にすることもないのだが……。

などと思っていたら、雨が降ってきた。

どうにも読めなかった天気予報がここで確定。これまでの局地的な小雨とは違い、しばらく止みそうにない雨だ。

致し方ない。急いで店を出て、出発地点の紀伊駅へと向かう。

おもち氏とは紀伊駅の手前でお別れ。急なお誘いにもかかわらず案内をしてくれたことに心からの感謝を。

無事紀伊駅につくと、軒先でうまく雨をやりすごしながら輪行状態を整え、帰路についた。

結びに代えて

流石に今週は桜を見るのが難しいと思っていたのだが……決断が功を奏したようである。雨による影響を受けたのは最後の最後だけだった。

ライドそのものは短いながらも、十二分に桜を堪能できた。主立った桜のスポットはと奈良や京都に点在しているが、和歌山の桜も侮れない。

有名処ではないのに、いや有名処ではないからか、十二分に満足のいくスポットが目白押しであった。

根来寺は手頃に桜を楽しめるし、名も無き桜のトンネルは桜そのものの存在を強く印象づける場所だ。最初ヶ峰の桜は、次はぜひ夜間に訪れたい。いずれも再訪したくなる場所ばかりである。

気がつけば、幾分メランコリックな気持ちは解消されていた。それが今年だけのものなのかどうかはわからないが。

気が滅入ると思いつつ、やはり桜の魔力には抗えないらしい。

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