前書き
乗鞍での落車から1カ月が経過した。
顔の傷もとりあえず塞がり、その他の外傷もだいぶ治ってきた。口の中は未だ時間がかかりそうだが、こちらは粘り強く治療に専念するしかない。
体を動かす分には問題ない程度にまで回復したようだ。再び自転車に乗ることについては少し思うところもあったが、今は乗りたいという気持ちのほうが強い。諸々のことは走りながら考えようと思う。
というわけで。サイクリストとしてのKeiOS、ひとまずの復活である。
復帰後最初のライドはどこにするか。体力の低下が否めない上に、夏の暑さもピークを迎えているので、きついルートは避けたい。何よりも落車したばかりの状態でヒルクライム・ダウンヒルてんこ盛りな道を走るのは気が引ける。
適度な距離でアップダウンが少なく、かつ復帰後のライドに相応しい目的地。そう考えながら、ふと自転車のほうを見てみる。
すると、サドルにお守りが巻き付けてあるのが目に入った。今から5年ほど前、京都の貴船神社で購入した二輪車用のお守りである。
普通、お守りは1年も経てば神社へ返納するのが一般的だ。それを5年も使用していたことに今更ながら気がつく。大事に使っていたのだと言い訳してみるものの、そろそろ返納したほうが良いのかもしれない。
大阪市内から貴船神社までの距離は片道60km程度。貴船神社の付近もさほど登るわけでは無いし、難易度は低めだ。
いいね、貴船神社。交通安全の祈願も兼ねているし、復帰後のライドにはぴったりだ。
普段からライドでご一緒している面々へ自転車復活の旨を報告し、久しぶりにライドのお誘いをかける。結果、次の方々に同行いただけることとなった。
坂本(@skmt_fact)
Shin(@shinox_kg)
373(@m_alice)
KeiOS(@kei_os_)
久しぶりのライドである。無事に走りきれるだろうかという不安はあるが、楽しみという気持ちのほうが大きい。
そして、もう絶対に事故には遭わないことを誓う。今回がその第一歩だ。
休憩は1回で十分とか思っていた時期もありました
2022年8月11日 木曜日
午前5時半ごろに起床。
ここしばらくは眠りが浅く、寝付けないことが多い。しかしこの日はそれなりにぐっすりと眠れた。
ぱぱっと準備を済ませたかったのだが、1カ月も空いているといつも持って行っていたものが何だったのかを忘れる。こういうのはやはり前日に済ませておくべきだ。
結果、予定していた出発時刻を5分ほど過ぎてしまった。SNSで参加者に詫びつつ、出発。
絶対に事故には遭わないことを誓う。
15分ほどかけて集合場所の毛馬閘門に到着し、Shin氏、373氏に挨拶。特にShin氏とは事故以来である。あらためて、当時の対応についてお礼を述べる。
既に強烈な日差しである。復帰後初ということもあり、お互いに無理せず行きましょうと声を掛け合う。
毛馬を出発。豊里大橋の下でちょうど坂本氏も合流し、4人パーティで一路京都を目指す。
快晴だ。淀川サイクリングロードにしては珍しく無風で、すいすい進む。
あっという間に関西医科大学前まで到着した。あまりにスムーズに走れたので、そのまま休憩せずに御幸橋へと向かう。
事故時に打ち付けた膝が気になっていたが、どうやら杞憂だったらしい。痛みや違和感はなくペダルを回せる。
御幸橋のさくらであい館に到着すると、一層強烈な日差しが降り注ぐ。無理せず休憩を挟むことにした。
出発地点から30km程度。既にボトルの水は空に近い。きっちりと水分補給を図る。
この暑さのせいかサイクリストの姿はまちまちだ。
そんな中、中学生らしき少年達が一生懸命パンクを直そうとしている光景に出くわす。
そういえば、私ってパンクしたことないですよね
言われてみれば、パンクの神様はすべて燕雲に降りてきている……
今でこそ簡単に直せるようになったが、最初のうちはえらく時間がかかっていたことを思い出す。
少年達はうまく直せるだろうかと少し心配しつつ、その場をあとにした。
桂川サイクリングロードに入り、そのまま北上する。
日差しを遮るものがなく、快晴の青空がよく見える。微風で走りやすい。
10kmほど進んだあと、桂川との分岐点にかかるr202でサイクリングロードから離れてR1に合流。
川沿いを離れると、急に暑さが5割増しになった感じがした。ずっとサイクリングロードを走っていてもつまらないと思いルート変更をしたのだが……これは失敗だったかもしれない。
JR京都駅近くにある東寺までやってきて、たまらず休憩を挟む。アイスが美味しい季節だ。
ここでやむなく373氏がDNFを宣言。さくらであい館を過ぎたあたりからどうにも様子がおかしかったようだ。
この暑さでは無理も無い。体が動くうちに引き返すのが吉である。
373氏と別れて鴨川沿いまで進み、そこからひたすら北へ進む。だが、ここに来て猛烈な暑さが体を蝕む。体から水分がどんどん出て行く。
京阪出町柳駅を過ぎて高野川沿いに走る。貴船神社まで残り10km程度だが、体はオーバーヒート気味。休憩なしでは走れそうにない状態だった。
ここで無理を押して走れば、判断を誤り事故につながる。そう言い聞かせて再びコンビニ休憩を挟んだ。
坂本氏曰く、普段の3倍くらい水分を補給していているとのこと。夏場のライドでは1時間に1リットルくらい体から水分が抜けるので、そのくらいでちょうど良いと思う。熱中症になってからではリカバーが大変だ。
この時点で休憩は既に3回。当初の予定では貴船神社までの往路における休憩は1回のみだった。夏の暑さをなめていたようだ。
貴船神社に車でくるたぁ良い度胸だ
しっかりと体を冷まして、再び出発。宝ヶ池の付近を抜けて、叡山電鉄に沿う形で走ってゆく。
ようやく貴船付近まで到着。山が近く、少し風が出てきた。しかし、その快適さとは裏腹に斜度が上がってゆく。
貴船神社までの上り坂の獲得標高は200mくらいである。大したことのない坂のはずだが、無理せずマイペースで登ってゆく。
マイペースで。マイペースで……。
いやなんか記憶よりも斜度がきついぞコレ。幸いにも木々で日差しは遮られているが、登りなので当然暑い。
しかも1車線の狭道にもかかわらず、車の数が多い。人の数も増えてゆき、まともに登れない状態だ。やむなく車体を押して歩く。
そうして。ついに貴船神社に到着。
大した距離ではなかったはずなのに、疲労感が強い。なんとか目的地までたどり着いたことに安堵する。
疲労はピークで、暑さのせいもあって食欲が失せる。たかだか1カ月の間にずいぶん弱体化したらしい。少しずつ戻していきたいところだが。
自転車を停めて、さっそく参拝の列に加わる。お盆のせいか人が多い。
境内には参拝者の願い事が書かれた短冊が添えられていた。神頼みにすがりたくなる気持ちも、事故を起こした今なら少しわかる。
賽銭を納めてお参り。今の願い事はただひとつ、もう二度と事故を起こしませんように。
お参りを済ませたところで、社務所で二輪車用のお守りを購入した。以前に貰ったお守りは、購入時に社務所の方が引き取ってくれた。
とりあえず、今日の目標達成である。
流石に貴船神社のあたりは涼しく、心地よい。お参りしている間に疲労はいくぶん軽減されてきた。
参道を見れば、さっきよりも人が増えているように感じる。あまり長居していても窮屈なだけだろう。少し忙しないが、早々に出発することとした。
一乗寺にある老舗の実力(天天有)
貴船神社の坂を下り、道沿いにあったコンビニで再び休憩。とにかく今日はいのちだいじに、である。
疲労は抜けてきたが、いまだ体は熱を保っている。昼食前だが冷たいスイーツで涼をとることにした。甘いものは苦手なのだが、致し方ない。
時刻は13時。もうお昼時である。この日は一乗寺でラーメンを食べることにしていた。
全国屈指のラーメン激戦区である京都・一乗寺。京都大学にほど近いこの地では多くのラーメン店が競合している。あの天下一品の総本店があるのもこの場所だ。
京都ラーメンといえば、濃厚な醤油ラーメン、鶏ガラ・背脂ベースのラーメン、あるいは鶏白湯のラーメンに大別される。いずれも濃厚でこってりとしているのが特徴だ。およそ京都のはんなりしたイメージとはそぐわないのが京都ラーメンである。
今回はそんな京都ラーメンのなかでも屈指の有名店へ行く予定にしていた。
下り基調のルートを安全運転で走り、一乗寺までさくっと戻る。
着いたのはこちら。
一乗寺で1970年代から店を構える老舗中の老舗だ。かくいう私は2回目の訪問である。
以前は夕方からしか開いておらずハードルが高かったのだが、ここ最近は昼からの通し営業となっているようだ。
お昼時を少し過ぎていたせいか、待たされることなく入れた。それでも店内はほぼ満席で、我々のあとにもどんどん客が入れ替わってゆく。
着席し、チャーシュー麺の中盛りに煮卵トッピングを注文する。
しばらくして出てきたのがこちら。
器を埋め尽くすチャーシューのビジュアルと、スープの香りが食欲をそそる。
いざ実食。
美味い。とろみのあるスープが細麺によく絡む。白湯に近い半透明のスープは程よい塩気で、塩分を失った体に染み渡る。
チャーシューも柔らかすぎず食べ応えがあり、これもまたスープとの相性が良い。麺とチャーシューを交互に味わいつつ、そこにスープが下支えしてくれる。
箸が立つようなこってりではないし、決して流行の味というわけでもない。けれども、確かな旨味をもたらしてくれる。まさに、京都ラーメンの源流ともいえる一杯だ。
個人的にはメンマはちょっと甘すぎる気がした。このあたりは好みがわかれるところだ。
食べるのは2回目だが、昔食べたかのような懐かしい味がする
なんかわかります。ふと気がつくとここに戻ってきてしまうような、そんな味ですね
流石は一乗寺の老舗……わざわざ来るのは少し面倒だが、ぜひまた訪れたい
今回はメニュー内容そのままで注文したが、こってり具合や麺の種類、固さもある程度オーダーすることができる。次に来るとは味変も試してみたいところだ。
天天有、京都ラーメンの名にふさわしい一杯であった。
その後、坂本氏とは京阪出町柳駅で別れたのち、Shin氏とふたりでJR京都駅から輪行で帰っていった。
結びに代えて
後から知ったのだが、この日の京都市内の気温は最高37度だったらしい。短時間でコンビニ休憩を繰り返したのも宜なるかな、である。
あまりの暑さに、その日は倒れるようにして眠ってしまった。9時間近くも寝てしまったのはずいぶん久しぶりだ。
久しぶりのライドはとても有意義で楽しいものとなった。もちろん、楽しかった理由はライドそのものにあるのだが、根底には事故に遭わなかったという結果が横たわっている。
サイクリストたるもの、事故に遭わずに帰ることは当然。その当然の結果を絶えず積み重ねることが大切なのだと、あらためて知る次第である。無事に帰ってきてこそ、楽しいという結果が確定するのだから。
次はどこへ行こうか。もちろん、安全第一で。