卵かけご飯と食べ損ねたソフトクリームと夏の終わり

自転車

前書き

その情報は、唐突に発表された。

弁天の里、閉店。

北摂を走るサイクリストにとっては言わずと知れた、たまごかけご飯(TKG)がメインの食堂である。国道R423の道沿い、ちょうど大阪と京都の県境に位置する。

近くに鉄道は無く、車かバイク、あるいは自転車などでアクセスすることとなる。サイクルラックを完備したこの店に自転車で訪れる人は多い。

弁天の里の特徴は、何といっても新鮮なたまごが食べ放題であること。500円の定食に対して、たまごは無料でおかわり可能だ。それにつられて、ご飯もおかわりしてしまうこと請け合いである。

また、サイドメニューにある唐揚げも見逃せない。3個150円で食べられるその唐揚げは揚げたてで、塩加減と歯触りが絶妙なバランス。これもまた、ご飯がすすむ一品だ。

過去に何度もたしかなまんぞくをもたらしてくれたそのお店が、閉店する。どうやらたまごかけご飯の仙人と称された店主がお亡くなりになったらしく、8月末でお店を畳むそうだ。

その一報を聞いたのは8月も下旬になってから。ずいぶん突然の話に、もうあのTKGは食べられないのかと少し気落ちしていた。

しかし、食べられなくなると聞くと、最後にもう一度食しておきたいと思うのがにんげんのサガである。

ちょうど弁天の里までの距離は家から片道40km程度。大した坂もなく、クロスバイクでのんびり行くにはちょうど良いだろう。

そんなことを思っていると、同じようなことを考えていたのが二人いた。きゃぷちゅん氏(@cap_pac)とふぃぼなっち氏(@nacci_contact)である。

閉店前、最後の日曜日なら皆都合がつくとのこと。おそらく行列になるだろうが、それでも行く価値はあるだろう。

こうして、弁天の里のTKGを最後にもう一度味わう機会を手に入れた。

今日も安全第一で

8月28日 日曜日

午前5時に起床。しかし、どうにも眠気がとれず、そのまま30分ほどウトウトする。

ポタリングで気が抜けているのだろうか。これではいかんと気を取り直して、準備を開始。6時半すぎに家を出た。

先日に乗鞍で落車して以来、出発時に安全第一で帰ることを呟くようにしている。ポタリングは結構だが、のんびり走ることと気を緩めることは必ずしもイコールではないのだ。

いつものように十三大橋を超える。

見れば、橋のたもとでいつもよりゴミが多く落ちていた。昨日は数年ぶりの淀川花火大会があったせいだろう。最低限のマナーはきちんと守って欲しいものである。

阪急十三駅の側を抜けてR176を北に進み、神崎川にかかる橋の北詰から川沿いの道へ入る。いつもの定番コースである。

旧猪名川のところで北に入り、川沿いに走って行った先で猪名川に合流。

そのまま北上していると、後ろから「おはようございます」の声。

振り向くと、後ろからきゃぷ氏が追いかけてきていた。おそらくこの道で出会うかもしれないと思っていたところである。

きゃぷ氏を加えて2人パーティで出発……したのもつかの間、さらに後ろから「奇遇ですね」との声が聞こえる。確認するまでもなく、なっち氏だった。

遅刻魔のなっち氏に追いつかれたことで、もしかして私は集合時間に遅れ気味だったのかと一瞬焦る(失礼)。

集合場所にたどり着く前に全員揃ってしまった。そういうこともあるだろう。

3人でのんびり走りつつ、ローソン池田新町店に到着。ちょうど集合時間だった。

そういえばクロスバイクでこの二人と走るのは初めてのような気がする。なんか3台並べて似たような配色になっているな……。

ここから弁天の里までは17km。緩やかな登りであることを考慮しても、1時間あればたどり着けるだろう。

軽く休憩を済ませて、さっそく我々は今日の目的地へと向かう。

いい夢を見させてもらったぜ……(弁天の里)

ルートを引いた自分を先頭に、R423を進む。

二人ともロードバイクであるのに対して、私のそれはクロスバイクだ。ZONDAに105というエントリーロードバイク顔負けの装備とはいえ、スピードはあまりでない。

それゆえに、先頭を走って蓋をさせてもらうことにした。

それにしても、8月だというのに妙に涼しい。それもそのはずで、気温は26度。

まさかの30度以下である。暑いとそれだけで疲労が激しいので、素直に有り難い。

池田から伸びるR423はなだらかな登り基調のルートだ。斜度は2~3%くらいだろうか。さして疲れるわけでもない。マイペースを保ちながら先頭をのんびりと登ってゆく。

そういえばこの道、ずいぶん昔にも一緒に登りましたね~

あれは2017年、もう5年も前か。あの頃は無茶ばかりだった

あまり無茶しちゃだめですよ。私、ロングライド仕様じゃないので……

5年ほど前にクロスバイクで登ったときは、たしかR423から亀岡を経て道の駅スプリング日吉に向かい、そのあとr50の酷い道を下りつつ六丁峠の往復ビンタを食らいながら、最後は嵐山を経由し家まで自走したのだったか。

およそクロスバイクで走るような行程ではない。だが、そういう無茶なライドほど記憶に残っているものだ。安全第一をキープしつつ、そういうライドもまたやってみたいものだが……。

ふと左手を見ると、キャンプをしている人たちで溢れている。

8月最終週の週末、最後の夏休みの思い出といったところか。どことなく漂う良い匂いにお腹を空かせながら先を急ぐ。

豊能町を越えて暫く進むと、京都府の文字が出現。目的地はもうすぐそこだ。

弁天の里 (たまごかけご飯専門店)

弁天の里 (亀岡/食堂)
★★★☆☆3.46 ■単品メニュー登場! ■予算(昼):~¥999

店の前までやってくると……。

撮影:なっち氏

予想はしていたが、やはり行列が出来ている。考えることは皆同じのようだ。

どのくらい待たされるかわからないけれども、ここで帰るという選択肢はなかった。自転車を停めて、最後尾に並ぶ。

列には我々と同じサイクリストの姿もちらほら見える。待ち時間の間にもサイクリストがやってきては並び、あるいは諦めて帰ってゆく。

結局、1時間ほど待っただろうか。ようやく店内に入る。

撮影:なっち氏

ここの基本メニューは500円の定食のみである。ご飯・味噌汁・惣菜1品、漬物のセット。そこにたまごが食べ放題でついてくる。

サイドメニューをプラスすることも可能で、カウンターにはいくつかの惣菜が並んでいる。もちろんイチオシは3個150円のからあげ。

今回も定食にからあげをセットで注文。他の客もこぞって注文しているらしく、からあげは少し時間がかかるとのこと。食べながら待つとしよう。

定食の乗ったトレーを持って着席。

なんともシンプルなビジュアルだが、メインはたまごである。たまごを2つほど割ってごはんにかけ、テーブルにある三種類の醤油から「にんにく味」を選び、気持ち多めにかけて混ぜる。

さっそく、一口。

美味い。予想の域を出ないまごう事なきTKGの味。だが、たまごが新鮮なせいか妙に美味しい。

にんにく醤油の風味がたまごの味と混ざりあい、食べながら食欲をそそられる。気がつけば一気にかき込んでいた。

なお、醤油はほかにノーマル、山椒がある。きゃぷ氏となっち氏はそれぞれの味を楽しむがために、ご飯を小皿にとってTKGを作っていた。そういう方法もあるのか……。

これで最後かもしれないと思い、おかわりをコール。ついでにたまごの追加をいただく。

次はノーマルの醤油でいただく。当然ながら、こちらのほうがよりシンプルなTKGとなる。なのに、いやだからこそ美味しい。家でやってみてもこんな味にはならないような気がする。

そうしてTKGを堪能していたところで、からあげが到着。

こちらも一口。

揚げたてであることを差し引いても、美味い。衣の付き具合も、塩加減も絶妙だ。少しご飯を残して一緒に食べれば良かった気もする。

もうこのTKGとからあげを食べることは叶わないのか。少し残念である。流石に主人が亡くなられては再開も難しいとは思うが、いずれまた、と思わずにはいられない。

トレーを返す際に感謝を込めて「ごちそうさまでした」と告げる。「今まで有り難うございました」とのお返事。最後ではあるが、気持ちが温かくなって店を出た。

弁天の里、たしかなまんぞくであった。

よくもだましたアアアア!!(CHOCOLATE BRANCH)

店を出て自転車にまたがり、R423を引き返してゆく。このまま亀岡あるいは高槻へ出てもう少し走るという選択肢もあったのだが、今日はただTKGを食べに来ただけのゆるぽたである。

緩やかな下り基調だが、あまりスピードを出しすぎないように気を付ける。というか、下りでの少しの段差が怖いと感じる。

クロスバイクは自然とアップライトな姿勢になってしまうので、ちょっとした突き上げでもバランスを欠きやすい。無理せず自分のペースで下ってゆく。

途中、狭い道で無理に我々を追い越してゆくサイクリストがいた。どれだけ気を付けていても他人の行動だけは防ぎようがない。極力関わらないようにするしかないのだが……。

池田市まで帰ってくると、ミスコンならぬオリコン、いけだ織姫コンテストのポスターが目に入った。

選考を経て二人の「織姫」を選出し、池田の観光大使として活動してもらう試みのようだ。既に第6回目らしいがそれなりに盛況なのだろうか。

特に寄り道することもなく、元来た猪名川の道を戻ってゆく。

この日は本当に走りやすい気候で、ボトルの消費も少ない。ただまあそれでもアイスくらいは食べておきたく、帰りに豊中市のCHOCOLATE BRANCHでソフトクリームを堪能しようということになった。

CHOCOLATE BRANCH

チョコレート ブランチ (曽根/チョコレート)
★★★☆☆3.37

甘いものは苦手だが、チョコレートはわりと好きなほうである。自分で購入することはあまりないけれど、手元にあったら一気に食べきってしまうことも多い。少しばかり楽しみにしながらクランクを回す。

途中で川沿いの道から道路に降り、伊丹空港の南側をかすめるようにして進む。すると、目的の店が見えてきた。

店の前までやってくると……。

かなしい。

コロナ禍や物価高の影響がこんなところにまで。当面は休業とのことだが、再開時期は未定なのだろうか。いずれまた食べられるようになることを願う。

仕方ないので、向かいのコンビニでフラッペを購入する。大して走ったわけでもないが、冷たいフラッペが体に染み渡る。

その後、猪名川沿いの道できゃぷ氏、なっち氏と別れ、帰路に着いた。久方ぶりのゆるライドだったが、リハビリにはちょうど良かろう。

結びに代えて

弁天の里のTKG。最後にもう一度食べることが出来た。いままでありがとう。そしておつかれさまでした。

適度に緩いライドであった。片道約40km、クロスバイクでさっと走るのに良い感じである。

クロスバイクでロングライドできないわけではないが、エクストリームクロスバイカーでもない私にはこのくらいの距離がちょうど良いのかもしれない。

とかなんとかいいながら、過去にクロスバイクで100km程度はよく走っていたので何ともいえないが。

それにしても、下りでの嫌な感覚がどうにも拭えない。

クロスバイクでのアップライトな姿勢で、頭が高い位置にくるせいだろう。ダウンヒルなんて怖がるくらいでちょうど良いのだが、妙なところでブレーキをかけたり変に力んでしまったりするのは望ましくない。

いずれにしても、注意しながら乗っていきたいものである。

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