前書き
佐賀と聞いて、何か具体的なビジョンが思い浮かぶ人はどのくらいいるのだろうか。
かく言う私も、数年前までは佐賀に関して何の思い入れもなかった。佐賀が九州にあることくらいは知っているが、じゃあその他は? と聞かれると、返答に窮したことであろう。
そんな佐賀であるが(あくまで近畿圏在住の人間から見た場合である)、数年前、その存在を世に知らしめる出来事があった。
アニメ『ゾンビランドサガ』の放送である。
『ゾンビランドサガ』とは、死亡した女子高生や平成アイドルや昭和アイドルやヤンキーや花魁や男の娘や「たえ」が令和の現代においてゾンビとして復活し、佐賀を舞台にアイドル活動を行う様子を描いた作品だ。
ゾンビという設定を下地に、生まれた時代が異なり、アイドルとしての常識も異なり、さらには佐賀への思い入れも異なる7人のゾンビたちが、己の矜持をかけてアイドル活動を行ってゆく。
その水面下では元祖ゾンビ村肥前夢街道プロジェクト……ではない、玄海ゾンビエネルギーパークプロジェクト……でもない、そう御船山ゾンビィ楽園プロジェクト……でもない。……何だったっけ?
そう、アイドル活動の水面下では「ゾンビランドサガプロジェクト」なるものが遂行しており、アイドル活動の果てに何やら佐賀をかけた壮大な目標が待ち受けている……らしい。
そんなゾンビランドサガの作中には、主立ったスポットは勿論のこと、佐賀の歴史や出身俳優に至るまで、「佐賀あるある」と言わんばかりの設定が目白押しである。
一方で、ゾンビの設定を活かした描写やコメディタッチな雰囲気、ストーリーテリングが冴え渡っており、佐賀県民ではない者でも(当然だが佐賀県民以外のほうが視聴者は多いだろう)幅広く楽しめる作品となっている。
とまあ、一言で表すのが困難な物語ではあるが、大変な「佐賀」愛にあふれた作品なのである。
別に佐賀に興味なくとも、ゾンビに忌避感があっても構わない。とりあえず見たが最後、エク○○スが如く「ゾンビとは、佐賀とは一体……うごごご!」と言わずにはいられなくなること請け合いである。
今回、ゾンビランドサガの作中に出てきた景色や建物などを鑑賞する、いわゆる「聖地巡礼」に赴こうということで、ライドの計画を組み立てた次第である。
とはいえ計画の大半はほとんど任せきりになってしまったわけだが。
その巡礼の参加者はこちら。
kabo氏(@kabotyo3)
坂本氏(@skmt_fact)
きゃぷちゅん氏(@cap_pac)
私(@kei_os_)
なお、言い忘れていたが佐賀といえばもう一つ、忘れてはいけないことがある。それは「サガシリーズ」の存在である。
「サガシリーズ」とはスクウェア(現スクウェア・エニックス)が手がける一連のゲーム作品である。
古くは1989年にゲームボーイで発売された「魔界塔士Sa・Ga」に始まり、その後「ロマンシング・サガ」シリーズ三部作、プレイステーションで発表された「サガフロンティア」、「アンリミテッド:サガ」、「サガ スカーレットグレイス」、そしてスマートフォンのアプリゲームへと続く。
歴史の古いRPGでありながら、当初から武器に使用回数が設けられていたり、フリーシナリオシステムが導入されていたりと、実験的な要素を強く感じさせるのが特徴だ。また、作品内のBGMがいずれも秀逸であり、熱烈なファンも多い。
かくいう私もかれこれ20年以上、サガシリーズを嗜んできたひとりである。
販売元のスクウェア・エニックスではサガシリーズに佐賀をかけたコラボも手がけている(名前が同じという以外に佐賀との関係は無い)。もしかすると、巡礼の途中でこうした出会いもあるのではないか。
そのようなことを考えつつ、巡礼当日を心待ちにするのであった。
佐賀ぐらい知ってるし! 佐賀は、九州!
2021年11月27日 土曜日
午前4時少し前に起床。眠い。
前日に準備を済ませていたので、特にすることもない。着替えて身の回りのチェックを済ませると、午前5時に家を出た。
自宅の最寄り駅で輪行状態にセットし、乗車。JR新大阪駅で新幹線に搭乗する。
音楽を聴きつつ景色を眺めることおよそ3時間。JR博多駅に到着した。
駅構内にはkabo氏、坂本氏、きゃぷ氏の姿もあった。どうやら皆同じ時刻のものに乗っていたようだ。
そそくさと地下鉄に乗り換える。博多駅は人が多く、分散して乗車する。とはいえ次の天神駅で一気に降車していったので、さほど邪魔にはならなかった。
西進し、地上に出てJRに乗り入れ。このまま佐賀まで走るらしい。佐賀と福岡が隣同士だったのか……あまり意識したことがなかった。
福岡と長崎の間になんかあるようなないようなと思っていたが、それが佐賀だったのか。これで佐賀のことを聞かれても「佐賀は九州!」と返さずにすみそうだ。
車輌は沿岸を走る。晴れた空の下、唐津湾を臨む。
かくしてJR浜崎駅に到着。
駅にはミニベロで輪行するサイクリストが。先に出ていくのを見送り、我々も輪行状態を解除する。
(なぜか自分の車体だけ撮り忘れた)
kabo氏曰く、どうにも佐賀にやってきた感じがしないそうな。彼は一度佐賀に来ているわけだが、その時には博多から走ってきている。今回は己の足で佐賀に踏み入っていないからそのように感じるのだという。
めいめい準備は整った。時刻は10時過ぎ。さっそく出発する。
俺が持っとるんじゃーーーい!(鏡山展望台)
佐賀の景色を満喫するぞ……と思ったら、いきなりのダートコース。
なるほど、佐賀にはまともな道すらないと見える(失礼)。これは最初からクライマックスだぜ。
最初の目的地、鏡山を登り始める。早速のヒルクライム。行程上最初にあるのだから仕方ない。
巡礼における本日の意気込みや、「これもいきもののサガか……」などとサガシリーズネタを語り合いながらのヒルクライム。ペースは自然、ゆっくりになる。
しかし、せいぜい高低差は300メートル程度と聞いていたのだが。それにしてはやけに登っている気がする。
どこまで登らされるのか……と訝しみ始めたとき、広い場所に出た。
ここが頂上らしい。
自転車を停めて鏡山展望台へと向かう。
ついた先には、絶景が待っていた。
日本海に面して広がる森は、虹の松原と呼ばれている。日本海の青と白い波、そして松林の緑とのコントラストが美しい。
その裾から広がる平坦な住宅地と畑の様子は、まるでRPGの2Dマップのようだ。
既にここはSaGaの世界か。
この 鏡山展望台 はゾンビランドサガ1期の11話、弱気になったさくらに対してプロデューサーの巽光太郎が諭すシーンに使われ場所だ。
諭すとはいっても、ツキを持っていないさくらに対して「俺がもっとるんじゃーい!」と豪語しただけなのだが。その勢いに任せた台詞回しもあって印象的なシーンのひとつに数えられる。
確かに、作中そのまんまの景色。いやそれ以上に見応えのある景色だ。ここまで壮大だとは思ってもみなかった。
ふと視線を下ろすと、イオン唐津ショッピングセンターが見えた。ゾンビランドリベンジ(2期)の11~12話で使われた例の商業施設のモデルである。
偶然にも外装工事中のようだが、その様子がなんとも作中の雰囲気に似つかわしい。
西側にはボートレースからつ。おそらくレーサー美沙による完璧なワラスボターンが再現されているに違いない(ゾンビランドサガリベンジ(2期)6話参照)。
ひとしきり景色を堪能し、展望台のすぐ近くにある鏡山神社に立ち寄る。
御朱印をもらうのが趣味のきゃぷ氏。今回のライドではいくつかの神社を回るはずだと、御朱印帳を持ってきていたらしい。流石だ。
最初のスポットからして既に充実感が凄い。これは楽しいライドになりそうだ。
ハンバーガーをよこせ! おれはかみになるんだ!(からつバーガー)
鏡山を下りてすぐ、kabo氏の案内で和菓子屋に寄ることとなった。
向かったのはこちら。
伊藤けえらん新家
浜崎の名物「けえらん」で有名なお店のようだ。
ちなみに「けえらん」とは「帰らん」の意。かつて浜崎の諏訪神社において、朝鮮出兵の必勝を祈願した豊臣秀吉がこれを食し、「これを食べたならば勝つまで本国にはけえらん」と言ったことが、その名の由来らしい。
なお、今回はけえらんを買いに来たのではない。このお店で取り扱っているという「いかようかん」を買いに来たのだという。
店内に入り、陳列された和菓子を眺める。しかし、いかようかんのタグも、それらしき商品も見当たらない。
出てきた店主に聞いてみると、「ああ、あるよ」と言って奥からいかようかんを出してくれた。kabo氏ときゃぷ氏が揃って購入。
これがそのいかようかんである。
想像よりもでかい(全長15センチくらいある)
ちなみに、なぜかきゃぷ氏のものだけ凍っていた。たぶんガラハ○から冷凍剣をくらっていたのだろう。彼は夜になってようやく解凍したそれを食べられたそうな。
「佐賀はイカ」と言われるらしいが、こんな形で回収するのは有なのか……?
気を取り直して出発。虹の松原に入る。
松林と単純に表現するのも憚られる。なんだ、このけしきは!
360度全方位が松のトンネルのようだ。先が見えない。たぶん道路から外れて松林に迷い込んだら出られないのではないかと錯覚するレベル。
先ほど鏡山展望台からも松で敷き詰められた様子が見えたばかりだ。内部の様子はさもありなん。本日は巡礼ライドのはずだが、こういう景色に囲まれた道を走られるのは僥倖である。
今回の昼食スポットは、そんな松林のなかにあった。
からつバーガー 松原本店
キッチンカーによる屋台形式の店だ。とはいえテーブル等が出ているわけではなく、テイクアウトのみの営業である。
この唐津バーガー、ゾンビランドサガの作中には出てこないのだが、CMアイキャッチで映るのが確認できる。アイキャッチのみで登場する佐賀の景色や店は、このほかにも多数存在する。
なぜかステッカーも販売しているらしい。
ハンバーガーはスペシャル、エッグ、ハムエッグ、チーズ、そして普通の5種類。せっかく来たので迷わずスペシャルを注文。500円なり。そこにポテトとコーラも付ける。
コーラで食事するなど普段の私からは考えられないことである。しかし、ことハンバーガーに関してはそれも有りだ。
しばらくして出てきたのがこちら。
ふむ、見た目は普通のハンバーガーだが……。
早速、一口。
美味い。少し固めのパンズに挟まれた肉とハム、レタス、チーズがケチャップソースと混ざり合って、これだよこれ、という感じの味を生み出す。
決して昨今のハンバーガー専門店に見られるラグジュアリー感もボリュームもない。だが、そこが良いと感じる。
特にチーズがとけておらずそのまま挟まれているというチープ感が私的には二重マルだ。これにくわえて普通のポテトとコーラ、もう言うことはない。
からつバーガー、安心のまんぞくであった。
私が3号です(唐津神社)
からつバーガーを後にして、再び走り始める。
虹の松原を抜けて、唐津市街に入った。
「ふるさと会館アルピノ」の標識におお……となった。ここも後で行かなくてはならぬスポットだ。
右手には唐津城が見える。これもまた、CMアイキャッチにのみ登場する。
北上内のT字路で左折し、南下。その先に次の目的地があった。
唐津神社である。
ここはゾンビランドサガリベンジ(2期)の3話で「フランシュシュ」3号こと水野愛が、生前に所属していたアイドルグループ「アイアンフリル」のメンバーから勧誘を受けるシーンに使われている。
件のシーンの場所はこちら。
ちょうど柵のむこうで1号さくらと、4号こと純子が盗み聞きしているのだが……この距離だと気づかれないか?
なお、フランシュシュとはゾンビとなったヒロインたちによって結成されたアイドルグループの名称だ。プロデューサーの巽光太郎によれば、フランシュシュの活動如何で佐賀の命運が決まったり決まらなかったりするそうだが……。
その荒唐無稽な設定がどこまで本気なのか、ぜひ作品を見て確かめて欲しい。
ちなみにこの巡礼スポットには、なぜか猫が複数匹たむろしていた。
ふむ……猫ね
猫は可愛いなあ
ちょっとKeiOS、あなた犬派だったんじゃなくて? あの獰猛で見境無く飛びかかってくる獣が良いとか欠片も理解できないのだけれど
愛想の良さをマイナスイメージな表現に置き換えるんじゃない。犬は好きだが猫も好きだぞ、俺は
ふーん……少しは見る目あるじゃない。KeiOSは猫がめちゃくちゃ好きなのね。あーあー仕方ないわねえ
いや、めちゃくちゃ好きとは
まあ、どうしてもっていうのなら、KeiOSには特別に猫を私の近くまで抱いてきても良い権利をあげるわ
それはどうも。しかし、自分で近寄ればいいのでは?
…………
…………
…………られるの
…………は?
近寄ったら逃げられるの! そっと近づいているのに、どうしてみんないつも私から逃げるのよっ
どうやら切実な悩みのようだ。もしかしてBlack inc向けたりしてるんじゃないだろうな、などと言おうものならば木っ端みじんにされかねないので黙っておく。
なお、この地でもきゃぷ氏はちゃっかりと御朱印をゲットしていた。流石である。
「俺たちが、怒羅美だ!」(大名小路児童公園)
時間は限られている。早々に出発。
とはいえ次の目的地は唐津神社の目と鼻の先。数分もしないうちに辿りついた。
大名小路児童公園(だいみょうこうじじどうこうえん)。
一見何の変哲も無いこの公園も、聖地なのである。ゾンビランドサガ(1期)の9話で、高齢者の心を掴もうと鹿島踊りに勤しむフランシュシュと、地元の老人達の姿が見られる場所だ。
そしてこの公園は、かつてフランシュシュ2号ことサキが所属していた暴走族レディースチーム「怒羅美(どらみ)」の縄張りでもある。縄張りに勝手に踏み込まれたと、怒羅美の現メンバーがフランシュシュに憤る場面で、公園という場所にミスマッチな特攻服とバイクの描写が目を引く。
とはいえ、鑑賞時はそこまで印象に残ってもいなかったのだが……。ここできゃぷ氏のテンションが急上昇する。
とりあえず彼に言われるがままに、kabo氏と私がヤマザキショップをバックに「チャリで来た」感を演出(作中ではバイクで来ている)。
撮影係の坂本氏から何度かリテイクが入り、「もしかして俺は怒羅美なのか……?」と思い始めたところで、公園にいたご老人から「もっとかっこよくきめにゃー」との助言をいただく。
何これリアルにゾンサガ9話なの?
怒羅美になれたきゃぷ氏はたいそうご満悦の様子である。一方kabo氏からは「そんなにテンション上がるスポットなら先に言ってよ! ここスルーしてたらどうすんの!?」とのツッコミが。
巡礼は事前の計画が大事である。
ある意味で始まりの場所(ふるさと会館アルピノ、屋台街、唐津駅)
怒羅美に扮したきゃぷ氏を真ん中において、我々は次の目的地へと向かう。
ふるさと会館アルピノである。
到着後、アルピノの外観から漂う雰囲気を堪能する。ここでフランシュシュのライブが……。
ここはゾンビランドサガ(1期)の最終話におけるライブ会場として使われた場所である。普段はその名の通り地域情報の発信の地としての性格が強く、地元の土産物の販売も行っている。
少なくともライブ会場としての雰囲気からはほど遠い。それでも我々は、アルピノの外観からフランシュシュのライブを思い出さずにはいられない。
土産物コーナーに移動すると、さくらと光太郎のポップがお出迎え。
ふむん、これは何か買っていけというサインだな。その意図はむしろどんとこいという感じであり、巡礼にしても何にしても、観光地へ来たからには何か買っていくことが地元貢献になるのだ。
などという大義名分を手に入れた私は、あたりを物色する。ただまあせっかくなので、ゾンビランドサガ関係の商品を買っていきたいところだが。
こういう時、サコッシュ或いはリュックの類いが欲しいと強く思う。ガチのロングライドでもなければ、荷物を運べる装備というのは携行してもそれほどのストレスにはならない。
むしろ、出先で購入したものを持ち運べるというメリットが走行時のデメリットをはるかに上回るはずだ。
考えても仕方ないので、とりあえずクリアキーホルダーと、ガチャ仕様の(何が出てくるか分からない)トレーディング缶バッジを購入。
別に、フランシュシュ4号=純子ちゃん推しというわけでもないのだが、一方で純子ちゃんは可愛いと思う。
さて、トレーディング缶バッジの中身は……。
やはりというかなんというか、純子ちゃんだった。私もまた持っている奴だったらしい。
そのアルピノの裏手には、屋台街が広がっていた。
今はシャッターが降りているが、いずれも夜には開くようだ。
外観からして10人も入ればいっぱいではなかろうか。しかし、こういう所で飲むのも楽しそうだ。
1期ではエンディングテーマの『光へ』に合わせて、この屋台街を含め計13枚のカットが映し出される。
水彩画のタッチで描かれたカットはどれも佐賀の景色を切り取ったものであり、妙に印象に残る。
巡礼スポットの探索がてら、こうした景色を求めるのも悪くないだろう。というか、kabo氏は今回それを目的のひとつにしていたようだ。
屋台街を離れ、すぐ近くにあるJR唐津駅へ向かう。
唐津駅前にあるロータリー周辺もまた、巡礼スポットのひとつである。ここは1期の3話、記念すべきフランシュシュ結成後の初ライブ(ゲリラライブ)が披露された場所だ。
ある意味で、この唐津駅前こそフランシュシュ始まりの場所といえるのかもしれない。とはいえ、最後までライブを見てくれた客らしき客は1人だけだったのだが。
唐津だけでどれだけ巡礼スポットがあるんだ……しかもどのスポットも距離が近く、一度にまとめて回ることができる。ゾンビランドサガ聖地巡礼には欠かせない場所といえるだろう。
だが、これで終わりではない。ここにはもう一つ、どうしても訪れておかなくてはならない場所がある。
では、ゾンビたちのふっかつのぶたいへ!(唐津市歴史民俗資料館)
唐津駅を出てr216に入り、そのまま海沿いに北上してゆく。
数分もしないうちに細い路地へ。湾にかかる小さな橋を登っていく。
左手に見えてきましたよ
こんな海沿いに巡礼地などあるのだろうかと、言われるままに視線を動かすと……。
まさか、あれは例の屋敷か!?
遠目にその姿を確認。間違いない、あれはフランシュシュのメンバーが拠点としている屋敷だ。こんな海沿いにあったのか。
橋を渡り、屋敷の前に到着。
この屋敷、正しくは唐津市歴史民俗資料館という。
ただし、表には旧三菱合資会社唐津支店本館と書いてある。
唐津市のウェブサイトによると、もともとこの屋敷は明治41年に石炭輸出などを行っていた同社が建てたものだそうだ。
どうやら老朽化が激しく、残念ながら現在は休館中らしい。
それにしても、作中の屋敷の様子そのままである。これは雰囲気があるな……。
作中のシーンを思い出しながら、ふと合点がいった。海沿いに建っているのはさもありなんと。
ゾンビランドサガリベンジの終盤では、突然の豪雨でこの屋敷が流されるシーンがある。
作中では屋敷が具体的にどの辺りに建っているのかは明らかにされない。勿論、海沿いにあるという情報もない。したがって、なぜ豪雨で流されることになるのか多少の違和感があったのだ。
しかし、この立地なら流されるのも当然といえるかもしれない。リアルに訪れてみて初めて地理上の事柄が理解できるというのも、巡礼の醍醐味といえよう。
屋敷の窓からは、フランシュシュのメンバー、さくら、サキ、純子の3人が顔を出していた。
これ、夜に見たらびっくりするんじゃなかろうか。
屋敷のてっぺんにはカラスの姿が。たしかそこにゾンビ犬のロメロがよじ登っていたな。
ちなみにロメロの名はゾンビ映画の巨匠、ジョージ・A・ロメロから来ている。
近くにはさくらのマンホールもあった。この場所だと、屋敷も一緒に撮ることができる。
ひとしきり屋敷の雰囲気を堪能したところで出発しようとすると、車に乗った近所の方が先ほど見たマンホールの存在を教えてくれた。
ゾンビランドサガの巡礼中であることを伝えると、ぜひ楽しんでいってくださいと返してくれた。どうやら作品は地元の人にも好意的に受け入れられているらしく、訪れる側も心が温かくなる。
「……風が、……くる!」「……KOJIMAは、心動かされた」(小島食品工業)
唐津市、見所が多すぎて時間があっという間に過ぎてしまった。だが、ここまではおおむね予定どおりだ。
次の目的地は伊万里市にある。唐津市からは25キロほど離れており、鉄道では少し行きにくい場所だ。しかし、ロードバイクなら移動しやすいといえよう。1時間半も見ておけばたどり着くはずである。
唐津氏から一路南下。しばらくして田舎道に入った。
ずっと市街地ばかり走っていたせいか、こうした景色が新鮮に映る。佐賀といえばこんな雰囲気を想像していたのだが、ここにきてようやくイメージ通りの景色が出てきた、というべきか。
それにしても、何もない。これは1時間ほどただ走るだけになりそうだな……。
などと考えていると、きゃぷ氏が突然スマホから曲を流し始めた。
こ、これは……フランシュシュの楽曲じゃないか! さすがはきゃぷ氏。退屈な移動もフランシュシュの歌をバックにあわせるとゾンビランドサガの巡礼に相応しいものとなる。
しかし、ことはそう単純ではなかった。我々は、ゾンビランドサガに対するきゃぷ氏の期待値を図り損ねていたのだ。
曲に合わせてきゃぷ氏が歌い始める。銭湯に躍り出ると、テンションとともにペースは上がる。
見ると、歌に合わせて右手がライブよろしくウキウキで動いている。
ここまでそんなテンションの高さ見せてなかったじゃないか!
のちに坂本氏はこう述懐する。
終始笑いすぎて、正直アップダウンもペースの速さも全く気にならなかった。我々もまた妙なテンションに影響されてしまっていたらしい。
そのテンションを維持しながら伊万里市へ突入。
夕焼けがまぶしい。時刻は16時半ごろ。次のスポットは17時閉店だが、なんとか間に合いそうだ。
テンションをどうどう沈めつつ、着いたのはこちら。
おつまみギャラリー伊万里
ここでは小島食品工場株式会社が製造しているおつまみを販売している。その小島食品工場とは、フランシュシュ3号こと水野愛が作中で勤務していた会社だ。
店内にはさきいかや焼あごといったおつまみがずらりと並ぶ。これだけ揃うと酒が飲みたくなるが……ぐっと我慢する。
ゾンビランドサガとのコラボ商品も販売していた。せっかくなので実家へのお土産とあわせて購入。自宅まで郵送してもらう。
……これは帰宅後の話になるが、ここのおつまみはどれも本当に美味い。ビールでも日本酒でも何でも合う。酒が進みすぎるのが避けられないので、むしろ注意が必要だ。通販も行っているので、ぜひ一度食べてみて欲しい。
その店舗の裏には、くだんの本社がある。
小島食品工業株式会社
愛ちゃんはここに通っていたのか。
創業は1902年。100年以上の歴史を誇る佐賀の老舗企業のようだ。
作中ではこの社屋の屋上で、例の社歌「イカの魂無駄にはしない~小島食品工場株式会社社歌~」が歌われるのだが……実はこの社歌はフィクションであり、実際には存在しない。
これを機に社歌作ってみてはどうですかね、小島食品工業さん?
鳥だー!!(ドライブイン鳥)
小島食品工業株式会社を離れる頃には、時刻は17時を過ぎていた。
日が暮れてきたところで、本日の夕食兼最後の巡礼地へと向かう。
R204を南下し、松島搦の交差点で左折。r321に入る。
白野北の交差点でR202に入りしばらく北に進むと、本日最後の目的地にして最大の楽しみが見えてきた。
ドライブイン鳥 伊万里本店
ゾンビランドサガを見た人ならば、この場所を忘れるはずはない。1期の5話でフランシュシュにCMの出演依頼をした、佐賀の超有名企業(と作中では言われている)である。
独特のCMソングはこちら。
作中でもこの歌に合わせて、フランシュシュが踊る様子が描かれる。ちなみにここの社長も同じ役回りで登場している。先ほどの小島食品工業といい、放送時点で既に地元とのコラボが凄い。
とりあえず、店の前で例のポーズを決めておいた。
kabo氏のポーズが一番決まっている感じがする。流石、周回プレイヤーは年季が違う。
店内に入り、受付のタッチパネルに入力。10組程度の待ちのようだが、ここまで来て帰るという選択肢はない。
雑談を交わしながら待つこと約1時間。ようやく着席する。
コタツ式の座敷というなんとも珍しい形式。汗冷えしていたのでとても有り難い。
大阪にもこうした居酒屋があるにはあるようだが、佐賀のほうが未来を先取りしているようだ。なお、日本一こたつの数が多い飲食店らしい。
そりゃあ、1時間も待つわな……と思う。一度入ってしまったら出られないぞ、これは。
さっそくここの看板メニューである一番定食を注文。若鶏(金網での焼き鳥)、鳥めし、鳥スープの3点セットだ。kabo氏曰くこれだけでも十分な量とのことだが、合わせて鳥ハラミ、唐揚げをオーダーした。
まずは1日目の巡礼成功を祝して、アルコールはないが乾杯!
しばらくして運ばれてきたのがこちら。
よく考えたら今日はからつバーガー以外ほとんど口にしていない。たいして走っていないとはいえ、流石に空腹も限界だ。それもまた良いスパイスとなるだろう。
鶏肉を金網に乗せながら、まずは鳥めしを一口。
美味い。焼きめしの類を想像していたのだが、まさかの炊き込みごはん風だった。出汁の味と香りが具材の隅々にまで染み渡り、なんとも安心できる味だ。
続けてスープも一口。中に入った鶏肉も合わさって、鶏づくしの味だ。溶き卵もよいチョイスで、むしろ親子スープと呼ぶべきか。
鶏肉の香ばしい匂いがあふれてきたところで、焼き上がったそれをまずは塩胡椒でいただく。
こちらも美味い。ただ鶏肉を焼いただけなのにどうしてこうも美味いのか。産地、或いは新鮮さへのこだわりか。無論、その両方なのだろう。
鶏肉もスープも、鳥めしも、めちゃくちゃ量が多い。これで税込み1000円ちょっとなのだから、コスパも抜群だ。
せっかくなので、作中で名前だけ登場したはちみつ黒酢カルピスも注文。
こちらは甘い……が、これも儀礼だと思い、あとでちびちびといただく。
ちなみにはちみつ黒酢カルピスは500円近くする。飲み物だけで一番定食の価格の約半分もするのが妙におかしい。よく見るとソフトドリンクではなく健康ドリンク扱いだった。
鳥ハラミも唐揚げも、どれも言うことなしの味。これは作中で2号ことサキがテンション上げるのもうなずける。
ここまで味良しコスパ良しの飲食店も珍しい。できれば大阪にも出店して欲しいものだが。
ドライブイン鳥、約束されたまんぞくであった。
伊万里市内のビジネスホテルに着く頃には、時刻は21時過ぎ。
翌日の巡礼場所を確認しながら、佐賀の夜は更けていった。
To be continued.