前書きの前書き
2019年12月21日 土曜日
それは、忘年会ライドの締めに訪れた、響珈琲での会話が発端だった。
確か、紀伊半島の西海岸に実家がある373氏(@m_alice)が年末にロードバイクで帰省するにあたり、「一緒に行きませんか?」と誘われたのがきっかけである。
その時は「ちょうど大阪から160~170kmくらいか、やはり真のラストライドはゆるポタなどではなくこういうロングライドとするべきだろうフヒヒ」などと訳の分からないことを考えていた、気がする。
誠に、酔いとは恐ろしいものである。
紀伊半島の西側といえば、実は有田~潮岬の間を走ったことがない。なお、R168を経由するルートを使い、紀伊半島を縦断する形で潮岬へ行ったことはある。
ルートとしては、海岸に沿って伸びるR42をひたすら南下することになるだろう。なんだかんだで海を眺めながらのライドは気持ちよいはずだ。
そんなことを考えると、久しぶりのロングライドもちょっと楽しみになってきた。
後日、373氏に参加の意を伝える。今年は金沢も潮岬縦断もやったので、今の脚力ならどうにでもなるだろう。
そう、この時まではそう思っていたのだ。
前書き
2019年12月23日 月曜日
マンツーマンのライドでも良かったのだが、373氏と相談のうえ、誰か他に行けそうな人がいれば一緒に誘ってみようということになった。
何人かに声をかけた結果、参加表明してくれたのはなっち氏(@nacci_contact)。
以前に潮岬縦断ライドを行った際の水先案内人を買ってくれた、頼れるサイクリストだ。しかし、そんな彼もR42経由で紀伊半島を走ったことは一度もないという。
373氏からライドの概要について説明があり、二つ返事で参加を決めてくれた。
死んだ魚の目で仕事をしながら、そんなSNS上でのやりとりを眺める。
――ん?
――何かひっかかりを覚えた。
何か、やりとりのなかで一カ所おかしいところがある……。
私の認識に大きな相違が生じているような気がしてならない。373氏からの案内文をもう一度丁寧に読み返す。
僕の帰省に合わせてkeiosさんと海岸線沿いに走って串本で海鮮食べるライドを企画中なのですがいかがでしょう?
大阪を深夜2時くらいに出発して15時から16時くらいに串本到着の予定です。
で、本州最南端の石碑のとこ行ってから海鮮食べて輪行で帰ってくる感じ。
いや、特におかしいところは何もない……はず……。
僕の帰省に合わせてkeiosさんと海岸線沿いに走って串本で海鮮食べるライドを企画中なのですがいかがでしょう?
大阪を深夜2時くらいに出発して15時から16時くらいに串本到着の予定です。
で、本州最南端の石碑のとこ行ってから海鮮食べて輪行で帰ってくる感じ。
……串本、だと?
373氏の実家は紀伊田辺のあたりだ。帰省ライドということは、当然その辺まで行くことになるだろう。串本――つまり潮岬まで行くと、さらに60~70kmほど伸びることになる。
帰省ライドをわざわざエクストリームライドに変えるとは、373氏、おそろしい子!
潮岬はこの年の11月に行ったばかりである。ああそうか、R42で行けばルートまったく違うから全然問題ないよねってことか! やだ373さんあったま良い! これでなっち氏も私も是が非でも参加したくなっちゃうよね!
……おそらく、先日の忘年会ライドで酔っ払っていたせいで、373氏の話を正確に聞き取れていなかったのだろう。しばらく酒はほどほどにしようと心に決めた次第である。
潮岬へのルートに関して、R42がどれくらい走りやすいのかは知らない。
しかし、幸いR42のそばには紀勢本線が走っている。いつでもDNFが可能だというのはずいぶん安心だ。
まあ、なんとかなるか……。そう思いながら仕事を終えると、現実から逃避するために冷蔵庫の金麦を取り出した。反省はしていない。
暖冬とかウソだろ?
2019年12月29日 日曜日
午前1時前に起床。前回の潮岬行きでは一睡もできなかったが、今回はとりあえず5時間ほど寝られた。そのことにまずは安堵する。
待ち合わせは午前2時のはずだが、既に373氏は大阪市内まで来ているらしい。朝食か夕食かよくわからない食事をかき込み、急いで出発する。
集合場所のコンビニで、373氏の姿を確認。続けてなっち氏も到着した。



これから約240kmのライドとなるわけだが、自身のコンディションはまあまあ。何よりも、途中でDNFできるというのは随分気楽である。
373氏も多少寝られたということで、問題はなさそうだ。しかし、なっち氏は遅くまで所用があったらしく、どうやら一睡もできていないらしい。
とりあえずは紀伊田辺を目標に行きましょうと声をかけて、出発する。
まずは和歌山市内まで出る必要がある。大阪~和歌山間にはいくつものルートがあるが、R42を使うならR64、雄ノ山峠を越えるのがもっともアクセスしやすいだろう。
そうすると、大阪府内は海沿いに近いルートをまっすぐ突っ切るのがいちばん早い。
大阪市内のコンクリートジャングルを走る。既に終電も終わっているだろうに、街にはそれなりに人の姿がみえる。

R41に入り、ひたすら南下。

岸里との交差点でR26に合流してさらに下る。ここから30km近くは一本道だ。

大和川を越えて堺市に入り、高石氏までやってくると車や人の姿もほとんどなくなる。





気温はどんどん下がっていくものの、373氏の鬼引きのおかげで体があったまる。……あとで汗冷えが怖いが。
特にトラブルもなく、5時ごろに雄ノ山峠のふもとにあるコンビニに到着した。


峠自体は大した登りではないが、先を見据えてきちんと補給をとっていく。
コンビニで買った補給食を持って外へ出た瞬間、猛烈な冷気を感じる。暖冬とはいえ最低気温が訪れるこの時刻はやはり寒い。しかも汗が冷えて体が震える。
暖冬とか何の冗談だと言いたくなるくらいに、寒い。
寒さにはある程度抵抗があるほうだが、汗冷えだけはいかんともし難い。インスタントみそ汁で少し暖まったものの、とにかく早く動きたい。
373氏もなっち氏も同じ気持ちだったらしく、手早く補給を済ませるとすぐに出発。さっそく、住宅街を縫うようにして雄ノ山峠の登りが始まる。
峠とついてはいるが、雄ノ山峠の登りは本当にたいしたことがない。距離約9km、標高差180mと聞けば、たいていのサイクリストは「ほーん」と思うのではなかろうか。
しかし、一刻も早く体を温めたいのか、ここで373氏が加速。緩い登りなのにそれなりの強度を持った走りへと変わっていく。今はそれが有り難い。

峠の途中にあるJR山中渓駅には、早くも列車の姿が確認できた。夜明けまではもう少しか。


程なくして頂上に着いた。雄ノ山峠は和歌山側の方が斜度がきついので、慎重に降りてゆく。

JR紀伊駅のそばを通り過ぎて、R24から紀州大橋を渡り、和歌山市街へ。


ここでR42に合流。以降はひたすら道沿いに進むだけである。
海南市に入るあたりで、ちょうど夜が明けてきた。

時刻は6時40分ごろ。ナイトライドも悪くはないが、やはり日の光を見るとほっとする。
なっち氏いわく、ナイトライドは日が出ると気が緩んで睡魔が襲ってくるとのことだったので、むしろここから気を引き締めなくてはなるまい。無理せずもう一度コンビニ休憩を挟んでおく。

ここまでで約76km。全行程の3分の1弱が完了した。潮岬にある本州最南端の地と書かれた石碑まで回る場合、残りはあと166km。
果たしてどこまで行けるだろうか。
二級河川と聞いてラディ○ツ顔で「ゴミめ……」と呟く遊び
コンビニで休憩している間に、あたりはすっかり朝になってしまった。R42に戻り、出発。

心なしか交通量も増えてきた。
……373氏には申し訳ないが、ここからは(ここからも)帰省時に何度もこの道を走っている彼に先頭を頼む。
藤白南の交差点とか初見殺しですしな……。


JR冷水浦駅のあたりを過ぎて、海が見えた。

ようやく、本ライドの醍醐味が味わえそうだ……と思ったら道はふたたび内陸部へ。


意外と小さなトンネルが多い。車も心なしか飛ばしてゆくので、周りに注意しながら走る。
有田市に入り、有田大橋を超える。ちょうど、私がR42を使って来たことがあるのはこの辺りまでだ。


ここから先は未知の領域だ。だのに、ゴール地点(潮岬)には行ったことがあるというのが妙な気分。

道に沿うようにして流れる有田川。

これだけ大きいにも関わらず、二級河川であるらしい。そもそも、一級河川と二級河川の違いは流域面積や長さによるものではない。
一級河川とは国土保全上、及び経済上きわめて重要な一級水系のうち、管理している河川のことを指す。
一方、二級河川とは一級水系に属さない水系のうち、公共の利害にとって重要な河川として管理されているものを指す。
見方を変えると、一級河川が氾濫した場合の影響はそれはもう甚大なものとなる。一方、二級河川も氾濫すると大きな被害を引き起こすが、一級河川に比べるとその影響は小さいといえるだろう。
確かに、大阪を流れる淀川や大和川は人口密集地に近く、もしこれが氾濫したときの被害は計り知れない。一方、有田川は川幅こそそれなりに広いものの、北側は山に囲まれており、周囲の人口もそれほど多くはない。
とはいえ、どちらも氾濫すれば困ることには違いないのだが。
なんかそんな違いがあったなあと思いながら、有田川を眺める。個人的にはこの大きな河川が有田らしさを形成する重要なファクターであると感じる。
対岸を眺めながら走っていると、みかんの絵が見えた。

それもそのはず、有田はみかんで有名な地である。ここから出荷される「有田みかん」は、みかんの生産量第一位を誇る和歌山のなかでも代表的なブランドだ。
近くにある千葉山へ行くと、段々上のみかん畑とつづら折りが楽しめる。「和歌山のラルプ・デュエズ」などと呼ばれることもあるが、あの地こそみかん王国・和歌山を象徴する風景といえるだろう。
「きしゅう君」の声が聞こえる……。

それにしても、綺麗な冬空だ。


2019年最後のライドに相応しい1日となりそうだ。
ここにもいたのか、量産型EVA
ちょうど有田川から離れていくあたりで、訳あって再びコンビニ休憩。
ここまで良いペースで来ているが、一睡もしていないなっち氏のコンディションは大丈夫だろうか。今のところ、問題はないとのことだが……。
大阪を出てから6時間ちょっと。私のコンディションは特に問題ないが、日が出てきたところで少しずつ集中力が途切れてくるかもしれない。
過去に寝不足等で落車→搬送というコンボをかましたことがある身としては、こういうときこそ慎重にいかなくてはと思う。
休憩中、有田の山を眺めていると妙な建造物を発見する。


量産型EVA、ここでも既に完成していたのね(違
別に、風量発電とEVAって全然似てないのだけれども。空に向かって同じ形でそびえる様子が、どうにもソレを連想させてしまう。
やはり、風力発電は眺めていて楽しい。これを見るためだけのライドを計画しても良いくらいだ。悲しいかな、近畿地方には大規模な風力発電所が少なく、あっても遠いのが難点だが……。
引き続き、R42を南下する。まばらに広がる店舗や住宅は、和歌山らしいといえばらしい。


それなりにお店や民家が途切れずに続いているのは、交通上、R42が重要な道だからなのかもしれない。
一応、R42は潮岬や新宮市へのアクセスには欠かせないルートである。
R42は和歌山市から紀伊半島の沿岸部に沿うようにして敷かれており、三重県の松阪市や伊勢市、鳥羽市、愛知県の田原市、そして静岡県の浜松市まで続いている(一応、起点は静岡側)。
なお、鳥羽市と田原市の間に広がる伊勢湾は海上区間となっており、伊勢湾フェリーを使って渡ることになる。静岡へ行くライドとしてこれを利用するのも面白いかもしれない。
再び、風力発電が見えた。

残念ながらR42経由ではアクセスできず、プロペラの真下にも行けないようだ。
しかし、風力発電が近くに見えるということは、山あるいは峠が近いのかもしれない。その予感が的中したのか、R42に入って初めての登りに差し掛かる。


水越峠と呼ぶらしい。大した標高ではないが、100km以上走ってきた身には少しこたえる。あまり飛ばしすぎず、マイペースで力を温存して登り切る。
下った先にも風力発電が並んでいた。先ほど見たものと同じ発電所のようだ。

微かな非日常感が楽しい。人工物の風力発電所を指して非日常感というのもヘンな話だが。
「みんなで幸せになろうよ」(CV:大林隆介)
水越峠のトンネルを抜けて一気に坂を下り、由良町、さらに日高町を駆ける。和歌山県中部でも比較的大きな都市である御坊市はもう目と鼻の先だ。
しかし、一同どうにも疲労が溜まっているらしい。
373氏は過去に何度かR42経由で帰省していることもあり、大阪からここまでずっと前を引いてくれている。その疲れが出てきているのかもしれない。
なっち氏はやはり寝不足のせいか、いつもの力強い走りが見えない。それでも十分な走力なのだが……。
先ほどのコンビニ休憩からまだ20km程度だったが、急遽コンビニ休憩を挟むことにした。
時刻は10時少し前。ここにきて、ナイトライド中の緊張感がぷっつりと切れたような気がする。
ちょうど、全行程の半分を終えたところだ。ここから潮岬まで約125km。ペース的にはぎりぎり行けそうな気がするが、果たしてこの疲労感を抱いたままたどり着けるだろうか。
いや、仮にたどり着けたとしても、達成感と引き換えの過酷なライドになりそうな気がする。年内ラストをエクストリームライドで締めるのも悪くはないが、できれば楽しく終わりたい。
何よりも、潮岬は今年に一度到達している。今回のライドで再度チャレンジすることにあまり意義は見いだせない。
この辺りが潮時か……。ライド中からぼんやり考えていたことを口にする。
予定変更して、白浜観光にしませんか?
そう、つまりは私が当初「勘違い」をしていたように、白浜を目的地とする案だ。
ここから紀伊田辺までの距離は40~50km程度。今のコンディションなら十分に昼時に着くだろう。紀伊田辺も海沿いの街であることから、海鮮の類いは豊富なはずだ。一応、チェックしてきた店もある。
美味い海鮮を堪能した後に白浜観光とすれば、午後はパレードランそのもの。わざわざ必死で潮岬まで行かずとも、それ以上の楽しみがそこにある。
脳内に後藤隊長の台詞が浮かんでくる。

373氏、なっち氏も似たようなことを考えていたのか、二つ返事で了承してくれた。
とはいえ、正直助かったという気持ちが大きい。ここで何が何でも潮岬へ行くと返されたら、私も腹をくくらなければならなかったところだ。
一気にライドの難易度が下がったところで、しっかりと休憩を取る。一応、ここから紀伊田辺まではノンストップで行くつもりでいた。
目標変更と休憩を経て、各々のコンディションがだいぶマシになったような感じがする。無理のないペースで行こうと示し合わせた上で、出発。
数分もしないうちに御坊市へ。



電車で通過したことはあるが、実際に市内をロードバイクで走るのは初めてだ。紀中の中核都市なだけあって、R42沿いもそれなりに栄えている。
休憩を取ったばかりなので、立ち止まることなく通り過ぎる。日高川にかかる天田橋を越えたところで、一気に海が近づいてきた。


おお……そうだ、今日のライドはこういう景色が見たかったのである。やはり海を眺めながら走るのは気持ちいい。
まぶしい太陽の光が降り注ぐ。

良い天気だ。こういう日に海岸沿いを走れる、それだけでもう年内のラストに相応しい。
先頭を走る373氏もテンションが上がってきたのか、ここに来て少しペースがあがる。

無理のないペースで十分にたどり着けるはずだが、もはや出し惜しみする必要もあるまい。私もなっち氏もペースを合わせてゆく。
それにしても……海岸沿いのコースに入ってから、どうにもアップダウンが多い。
夜間走行での緊張感を伴いながらそれなりのペースで走ってきたせいか、わりと脚にくる。ものすごくきついわけではないのだが。
そんなことを話していたら、「白浜~潮岬間はもっとアップダウンがきつくなります」という373氏の声。それを聞いて、やはり白浜を終点にしておいて良かったと感じる。
串本まで行けなくもなかったと思うが、年末に無理を通すようなライドはあまりしたくない。
海側を走っているはずなのに。ふと反対側を向けば、そこには山々に囲まれた景色が。



以前に十津川、熊野大社を経由して串本へ行ったライドとはまた違う趣がある。そのうちこらちのルートでも完走したいものだと思う。


出発地点からおよそ150km。ついに、田辺市の標識が見えた。

to be continued.